コラム

「悩んでる時もとりあえず頑張っておく」 油井亀美也宇宙飛行士に聞いた、若き日の苦悩と自分の選択を正解にする秘訣

2025年06月12日(木)12時35分


akane250610_yui_profile.jpg JAXA宇宙飛行士
油井亀美也(ゆい・きみや)
1970年長野県生まれ。防衛大学校理工学専攻卒業。航空自衛隊でテストパイロットを務める。2009年にJAXA宇宙飛行士候補者として選抜される。11年に大西卓哉氏、金井宣茂氏とともにISS(国際宇宙ステーション)搭乗宇宙飛行士として認定される。2015年、ISS第44次/第45次長期滞在クルーのフライトエンジニアとして約142日間滞在。滞在中は日本人初の宇宙ステーション補給機「こうのとり」のキャプチャ(把持)を遂行した。16年11月から23年3月までJAXA宇宙飛行士グループ長。

油井 助けていただいたことは本当にありがたく思っています。一方、助けてもらうには良好な人間関係を築いておかないといけないですし、そもそもやりたいことを他の人に率直に話しておかないと「私が何をやりたいか」を理解してもらえないですよね。

だから、コミュニケーションをとって色々な人と仲良くしておくことで、巡り巡って自分が困った時に助けてもらえる、乗り越えられるということかと思っています。


──油井さんも他の人を支えて助け続けてきたから、自分に返ってきているということなんでしょうね。

油井 そうなるといいなと思っています。人間の社会の中ではどんな人も1人じゃないし、みんな一緒に生きているわけです。だから、困ってる人を見たら助けるということが自分自身のためにもなるし、世の中を良くしていくためにも重要かなと思います。

──先日、JAXA宇宙研の藤本(正樹)所長と話したとき、「自分が思っていたのと違う結果になったときに、もうひと頑張りできる人は少ない」とおっしゃっていたんです。最近は、自分や何をやればよいか分からなかったり、もうひと頑張りが難しかったりする若者も多いと思います。何かアドバイスはありますか。

油井 私自身も若い頃は当然悩みましたし、何をしたらいいのか分からなくなって何もできなくなったりしたこともありました。

私は防衛大学校に進んだのですが、その時は「宇宙飛行士か天文学者になりたいのに、(経済的事情から)選択肢として防衛大学校に行かざるを得なくなってしまった。夢が壊れちゃった」と落ち込んでいたんですよ。

でも、入学後に一緒の部屋になった4年生の先輩が素晴らしい方で「君が悩むのはよく分かるけれど、悩んで何もしないと将来の選択肢は君の気がつかないところでどんどん狭まってしまうよ」と声をかけてくれたんです。

防衛大学校は「今やらなくてはならないこと」が本当にたくさんあるんですけれど、「勉強とか訓練とかクラブ活動とか、悩みながらも頑張りなさい。頑張っていれば、自分の気がつかないところで将来の選択肢が広がっていくから」と。

その言葉が非常に役に立ちました。だから、悩んでもいいから、悩んでる時もとりあえず頑張っておけばどこかで役に立つはずだと思うことが大事なのかな、と思います。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

伊GDP、第2四半期は前期比-0.1% 予想外のマ

ビジネス

ユーロ圏GDP、第2四半期速報は前期比+0.1% 

ワールド

カムチャツカ沖で巨大地震、M8.8で1952年以来

ワールド

中国政治局会議、経済支援へ 無秩序な競争取り締まり
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 3
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突っ込むウクライナ無人機の「正確無比」な攻撃シーン
  • 4
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 5
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 6
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    タイ・カンボジア国境紛争の根本原因...そもそもの発…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「出生率が高い国」はどこ?
  • 10
    グランドキャニオンを焼いた山火事...待望の大雨のあ…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 8
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story