コラム

「この名前を与えてもらって感謝」油井亀美也宇宙飛行士に聞いた、「亀」の支えと利他の原点

2025年06月10日(火)22時30分
油井亀美也

独自インタビューに応じた油井亀美也宇宙飛行士(6月6日) 筆者撮影

<自衛隊から宇宙飛行士に転身し、守りたいものの対象が広がったという油井亀美也宇宙飛行士。子供の頃は理解に苦しんだという名前の「亀」の字のこと、前回の宇宙滞在からの10年間で成長したことなどについて、独自インタビューで聞いた>

JAXA宇宙飛行士の油井亀美也さんは、早ければ7月にもISS(国際宇宙ステーション)長期滞在に向かいます。2015年以来2回目の長期滞在になる今回のミッションは、アメリカの民間宇宙船「クルードラゴン」でISSに向かい、「きぼう」日本実験棟で将来の月探査、火星探査につながる実験や技術実証などを行う予定です。

油井さんと地上からミッションをコーディネートする松﨑乃里子インクリメントマネージャは4日、都内で会見し、計画の概要や意気込みを語りました。

その中で油井さんは「明るい未来を信じ、新たに挑む!」というキャッチコピーを紹介。「宇宙開発で日本は技術を積み重ねて信頼を勝ち取り、世界中から期待されている。私が成果を残せば信頼をさらに高められる。日本はこれだけできるということを示し、日本の皆さんに勇気や明るい希望を与えられるようなミッションにしたい」と抱負を語りました。


今回の長期滞在では、将来の有人宇宙探査に向けて日本が独自の技術を持つことが切望される二酸化炭素除去システムや、ポストISS時代を見据えた微小重力環境下での精密なロボット動作の誤差の影響などを技術実証します。

さらに、今年3月からISSに滞在している大西卓哉宇宙飛行士から業務の引き継ぎを受ける予定もあります。「宇宙空間で日本人宇宙飛行士が直接バトンタッチする」という珍しい状況に、油井さんは「友達と宇宙で待ち合わせをする機会はなかなかないので楽しみにしている」と声を弾ませました。

また、長期滞在中に日本の新型宇宙輸送船「HTV-X」が初めてISSに到着する可能性もあります。「もう一つの待ち合わせ」について油井さんは「一番楽しみと言うと大西さんが妬いてしまうかもしれないが、到着したらロボットアームを使って素早く優しくキャッチしたい」と意気込みました。

会見の後、アメリカでの最終訓練直前の油井さんに独自インタビューする機会を得ました。前編となる今回は、名前の「亀」のようにコツコツ頑張ってきたことやアルテミス計画で日本人2人の月面着陸が決まった時の宇宙飛行士たちの反応などについて聞いてみました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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