コラム

「悩んでる時もとりあえず頑張っておく」 油井亀美也宇宙飛行士に聞いた、若き日の苦悩と自分の選択を正解にする秘訣

2025年06月12日(木)12時35分
油井亀美也

都内で開催された記者会見で、宇宙でのミッションの概要や意気込みを語った油井亀美也宇宙飛行士(6月4日) 筆者撮影

<若い頃には、宇宙飛行士に憧れながらも経済的事情から防衛大学校に進んだことで「夢が壊れちゃった」と落ち込んだという。その悩みはどう乗り越えられたのか。また、ISSで「直接バトンタッチ」されることになっている大西卓哉宇宙飛行士との特別な関係についても聞いた>

日本には7人の現役JAXA宇宙飛行士がいます。1999年に宇宙飛行士候補者に選出されたベテランの古川聡さん、星出彰彦さん、2009年選出で中堅として支える油井亀美也さん、大西卓哉さん、金井宣茂さん、2023年選出で宇宙でのミッションは未経験のフレッシュな米田あゆさん、諏訪理さんです。

宇宙飛行士の業務の中でISS(国際宇宙ステーション)長期滞在はほんの一部分ですが、微小重力環境下で将来の惑星探査の基礎となる実験や技術実証を行う重要な仕事です。現在は大西卓哉さんがミッション実施中で、次回は油井亀美也さんが早ければ7月から約半年間滞在します。


9日からアメリカでISS滞在前の最終訓練に取り組む油井さんは、直前に約1週間帰国しました。4日に都内で行った記者会見ではISSを「平和の象徴」と呼び、「(地上から)空を見上げればISSが見えて、色々な考えの色々な人種の人たちが、あそこで生活をして仲良く成果を上げているというところが、人類の明るい未来を象徴している」と力を込めました。

さらに油井さんは「2015年の最初のISS滞在は『宇宙に行きたい』と願い続けてから35年後だった」と話し、「自分を信じて亀のようにコツコツ努力することの大切さ」を強調しました。

会見直後の油井さんに行った独自インタビューの後編は、その人柄に触れ、コミュニケーションと成功の秘訣に迫ります。

■名前の「亀」の字の通りにコツコツ頑張ってきたこと、アルテミス計画で日本人2人の月面着陸が決まった時の宇宙飛行士たちの反応などについて聞いた前編はこちら

◇ ◇ ◇

──記者会見では、子供たちへのメッセージとして「自分は天体が好きで、コツコツ勉強して少しずつ成長した。好きっていうことは才能なので、自分に能力があると信じて『好き』を頑張れば未来は開ける」という趣旨のことを話されていました。とはいえ、油井さんも上手くいかなくてくじけそうになったときはあると思います。どうやって気持ちを切り替えて、克服していったのですか。

油井 私自身はそんなに強い人間ではないので、くじけそうになったことはたくさんあります。そういう時を思い出すと、自分でなんとかしたことは少なくて、だいたい他の人に助けていただきました。

「諦めるな」とか「君はもっとできるはずだ」という言葉をいただいては素直に聞いて、「じゃあ、もう少し頑張ってみるか」という感じで実際に頑張っていけました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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