コラム

DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表

2026年01月17日(土)10時10分
父と子

(写真はイメージです) imtmphoto-Shutterstock

<群馬大学生体調節研究所の堀居拓郎准教授、畑田出穂教授らの研究グループが開発した新技術により、DNA配列以外の変化が子どもに伝わる仕組みの一端が明らかに。「精⼦特異的エピゲノム編集システム」と名付けられたその技術と、実験内容について概観する>

親子に似通った性質を見つけた時、良い特徴の場合でも悪い特徴の場合でも、現代に生きる私たちは「それってDNA(のせい)だね」という言い方に馴染みがあります。

人間でも他の生物でも、「親子が似ている現象」は太古の時代より当たり前のこととして受け止められてきました。といっても、サイエンスで語られるようになったのはたかだか200年前のことで、「遺伝学の父」グレゴール・ヨハン・メンデルが植物の遺伝法則を提唱・実証したのは19世紀半ばです。


さらに100年後の20世紀半ばには、DNAが遺伝情報を担う本体であること、二重らせん構造を取り細胞分裂の際に正確に複製すること、DNAの遺伝情報はRNAを経てタンパク質に伝えられる仕組みを持つことなどが明らかになりました。

その後しばらくは「子どもの特徴は親から受け継いだDNA配列のみで決まる」と考えられてきましたが、近年は「親の後天的な特徴であるストレスや加齢などが精子や卵子の遺伝子機能に関わる情報を変化させ、次世代に影響する可能性がある」という指摘がされるようになりました。しかし、直接的な証拠を示すことは困難でした。

今回、群馬大学生体調節研究所の堀居拓郎准教授、畑田出穂教授らの研究グループは、マウスで「父親の精子に生じたDNA配列以外の変化が子どもに受け継がれ、体質や病気の発症リスクに影響する」ことを実験で示しました。世界初と言います。研究成果はオープンアクセスの科学誌「Nature Communications」に25年12月25日付で掲載されました。

研究者たちはどんな実験結果から「DNA配列以外の子への遺伝」を確信したのでしょうか。概観してみましょう。

解明されつつある「エピゲノム」とは

DNAの遺伝情報は、常にすべての部分が発現している(タンパク質を合成し、情報が体内の構造や機能に変換されること)というわけではなく、特定のタンパク質を作るスイッチのオンとオフが切り替わることで調節されています。

近年は、DNAの塩基配列を変えずに後から付け足されることで遺伝⼦のオンとオフを制御する仕組み(エピゲノム)も解明されつつあります。たとえば「DNAメチル化」は、DNAを構成する塩基の炭素原子にメチル基が修飾(付加)することで遺伝子の発現を抑制する働きがあります。「ヒストン修飾」はDNAが巻き付いているヒストンと呼ばれるタンパク質に、アセチル基やメチル基などが結合することで、遺伝子の働きが調節されます。

さらに遺伝学の最新研究では、特殊な環境で親にストレスを与えると精⼦や卵⼦のエピゲノムに変化が⽣じ、それが⼦や孫に伝わって病気などを引き起こす可能性が⽰唆されています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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