コラム

人間だけではなかった...「エピソード記憶」を使って計画を立てられるコウモリがいると判明 「後天的スキル」であることも明らかに

2024年07月22日(月)22時20分

研究チームは「オオコウモリのような果実食の動物は、何の種類の果実がどこにあるのかという知識に基づいて採餌を計画するだけでなく、特定の木をいつ訪れるかを決定するために時間マッピングにも依存しているはずだ」という仮説を立てました。

検証するために、まずコロニーの各コウモリに高解像度の小型GPSを取り付け、数カ月間にわたって飛行ルートや訪れた木々を記録しました。その後、「コウモリが果樹の季節変化について時間的な理解を持っているか」「最後に木を訪れてからの時間を、脳内で追跡できるのか」を判断するために、19 匹のコウモリを短期(1晩)または長期(4晩または7晩連続)の間コロニー内に閉じ込め、外に餌を探しに行くのを妨害しました。また、コウモリは、①若くて採餌経験が浅い群と、②年老いていて経験豊富な群に分類されました。

コウモリが時間の経過を認知し、エピソード的記憶を形成できるとすれば、足止め時間の長短によって異なる果樹に異なる頻度で再訪するはずです。つまり、足止め時間が長ければ、果実を短い期間しか実らせない木ではもう餌がなくなっている可能性が高いため、コウモリは訪れないと考えられます。

「後天的に習得するスキル」

実験の結果、足止めから1日後に自由になった場合は、コウモリたちは前夜に訪れた木へ再度飛んでいくことが分かりました。経験の浅い群と豊富な群で、行動に相違はありませんでした。

しかし、足止め期間が4日~1週間になると、経験豊富なコウモリたちは解放後、果実を長期間付ける木に再訪し、短期間しか実を付けない木を避ける行動をとりました。一方、経験の浅いコウモリたちは、1日後に解き放たれた時と変わらない様子を示しました。

ヨベル教授は「年老いたコウモリは、それぞれの果樹に対して最後に訪れてからどのくらいの時間が経過したかを推定でき、その結果、短期間しか実を付けないため、もう訪れる価値がない木がどれかを知ることができました。若くて経験の浅いコウモリはできませんでした。つまり、これは過去の経験に基づいた行動であり、習得しなければならない後天的なスキルであることを示しています」と説明します。

これらの実験から、エジプトルーセットオオコウモリは少なくとも数十本の樹木の位置を記憶し、経験を積んでそれらの季節変化について理解すること、過去の記憶(エピソード的記憶)を使って現在の採餌に活用していることが示唆されました。

未来の採餌を計画する力

研究者たちは次に、コウモリが採餌に利用できる多くの樹木の中からどのように実際に飛んでいく木を選んでいるのか、ねぐらを離れる前に将来の採餌を計画しているのかについて解き明かそうとしました。

コロニーの15匹に対して観察を続けると、夜行性のコウモリたちが夕方、餌を求めて飛び立つ時、最初にコロニーを離れたものは糖分を多く含む果樹に行き、後に行動したものはタンパク質が豊富な果樹に行くことが分かりました。

このことは、すぐに餌を探しにいったコウモリは空腹のためエネルギーとして即効性のある糖分を求め、それほど空腹ではないコウモリは今後を見越して身体を作るタンパク質を求めたことが示唆されます。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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