コラム

両親がオスの赤ちゃんマウス誕生 幅広い応用と研究の意義、問題点を整理する

2023年03月21日(火)11時30分

実用化には、他にどんな問題点があるか考えてみましょう。

たとえば、ヒトではiPS細胞から始原生殖細胞様細胞への分化は確立されていますが、その先の卵子への分化はまだ不完全です。実験マウスの寿命は長くても3~4年ですが、それよりもはるかに長いヒトの卵子を作るためにはY染色体の消失に時間がかかり、長期間にわたる培養で異常が発生しやすくなる懸念もあります。今回の成果をヒトに応用するためには、iPS細胞に関するさらなる研究成果や技術的な進歩を待たなくてはならないでしょう。

さらに、代理母の問題もあります。たとえ両親が雄(男性)の受精卵の作成に成功しても、誕生させるには雌(女性)の子宮に移植するか人工子宮を用意する必要があります。

人工子宮の研究では、17年にフィラデルフィア小児病院のチームがヒツジを用いたものなどがあります。この実験では妊娠105~108日(ヒトの胎児の23週に相当)のヒツジ5匹が4週間、人工子宮で育てられました。けれど、哺乳動物を受精卵から正常な妊娠期間まで人工子宮で育てて出産に至った研究成果はまだなく、ヒトでの実用化には時間がかかりそうです。

とはいえ、今回の研究が生殖医療や遺伝子治療、多能性幹細胞の実験に大きな可能性を与えたことは間違いありません。実用化までは猶予がある今だからこそ、先端技術の利用や規制、倫理問題について議論を進めておくことが重要でしょう。

ニューズウィーク日本版 日本人が知らない AI金融の最前線
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月3号(2月25日発売)は「日本人が知らない AI金融の最前線」特集。フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに[PLUS]広がるAIエージェント

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ドバイで空港と代表的ホテルが被害、イランの攻撃で

ワールド

イラン最高指導者ハメネイ師死亡か、トランプ氏は攻撃

ワールド

石油・ガスメジャーや商社、ホルムズ海峡経由の輸送停

ワールド

IAEA理事会、2日に緊急会合 イラン攻撃協議 ロ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作曲家が「惨めでもいいじゃないか」と語る理由
  • 2
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 3
    「努力が未来を重くするなら、壊せばいい」──YOSHIKIが語った創作と人生の覚悟
  • 4
    【クイズ】世界で最も「一人旅が危険な国」ランキン…
  • 5
    ウクライナが国産ミサイル「フラミンゴ」でロシア軍…
  • 6
    がん治療の限界を突破する「細菌兵器」は、がんを「…
  • 7
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 8
    トランプがイランを攻撃する日
  • 9
    米・イスラエルの「イラン攻撃」受け、航空各社が中…
  • 10
    「本当にテイラー?」「メイクの力が大きい...」テイ…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story