コラム

イヌ好きならぜひとも知っておきたい、イヌにまつわるワンダフルな研究

2021年12月21日(火)11時15分

今回のデータは飼い主が家で取ったデータなので、科学的な厳密性には欠けています。どちらかの前肢が痛かった可能性や、性ホルモンに関わる去勢手術の有無などの情報もありません。また、現在ヒトに右利きが多いのは、言語を使うようになって左脳が発達したためだという説が有力です。

もっとも、研究チームは、イヌの「利き手」を把握することによって、盲導犬や警察犬などの訓練プログラムに役立てることを考えています。飼い犬の個性の一つとして「利き手」を把握しておくことは異変の早期発見につながるので、健康ケアにも有益でしょう。

2.イヌは飼い主が他のイヌを可愛がると嫉妬する

ニュージーランド・オークランド大学の研究チームは、「精巧に作られた犬のぬいぐるみ」と「円筒形の置物」を使い、飼い主が自分以外を可愛がる様子を見せた時の18匹のイヌの反応を調査しました。

イヌは飼い主と同じ部屋にいますが、リードに繋がれているため、飼い主に近寄ることはできません。イヌがぬいぐるみや置物に嫉妬したかどうかは、リードを引っ張ったり吠えたりする様子で評価されました。

実験ではまず、飼い主が横に置かれた犬のぬいぐるみを可愛がる様子をイヌに見せました。その後、イヌとぬいぐるみの間についたてを置いて、イヌからぬいぐるみが見えないようにして、同じように可愛がりました。

その結果、たとえぬいぐるみがイヌから見えなくても、飼い主がそのぬいぐるみを可愛がっているような素振りを見せると、リードを強く引っ張って飼い主のもとに行こうとしました。いっぽう、置物を使って同じ実験を行ったところ、イヌがリードを引っ張る力は、ぬいぐるみの場合と比べて明らかに弱くなりました。

研究チームはこの結果から、イヌは飼い主が他のイヌ(犬のぬいぐるみ)を可愛がると嫉妬のサインを見せると結論づけました。根拠は2つあります。1つ目は、イヌが嫉妬の様子を見せたのは、飼い主がぬいぐるみを可愛がったときだけで、円筒形の置物に対してはその様子を見せなかったこと。2つ目は、他のイヌが見えなくなった時でも、飼い主が可愛がっている素振りを見せると嫉妬が現れたことで、嫉妬は他のイヌの存在そのものが原因ではないことが分かりました。飼い主が他のイヌに愛情を示すことが、嫉妬行動のトリガーなのです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ中銀、経済成長率加速を予想 不透明感にも言及=

ワールド

共和予備選、撤退のヘイリー氏が2割得票 ペンシルベ

ビジネス

国内債は超長期中心に数千億円規模で投資、残高は減少

ワールド

米上院、TikTok禁止法案を可決 大統領「24日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story