コラム

人工知能の反逆より人間のほうがよほど怖い。一番怖いのは頭でっかちのエリート

2016年08月16日(火)13時48分

 非常に進化したAIを搭載したロボット戦士やドローンを大量に生産した国が、戦争で全戦全勝するようになるだろうし、株価の変動を人間より正確に予測するAIを開発した会社が、世界中の富を手中におさめるようになるかもしれない。

 AIによる世界征服を心配する前に、まずはAIを使って世界征服を目論む人間のことを心配すべきだと思う。

 中でも僕が一番心配なのが、議論好きの頭でっかちエリートたちだ。どうやら人間って理詰めで物事を考えると、大事な何かを見失う傾向にあるようだ。この世の中には「この程度の善悪の判断は子供でもできるのに、なぜこんなエリートが誤った判断をしたんだろう」というようなニュースであふれている。

「頭」より「腹」を使え

 会社の利益を最優先して、ウソの報告書を国に提出するなんて、ざらにある話だし、極めつけは戦争だ。1つの民族を劣勢民族だと決めつけて収容所で殺害したり、1つの市が消滅するほどの爆弾を開発して何十万人も一度に殺害したり......。もし宇宙人が宇宙から地球の様子をのぞいていたら、地球人ってなんてバカなんだろうと思うに違いない。狂気の沙汰としか思えないことが、いわゆる「頭のいいエリート」たちの判断で実行に移されている。

 ではどうすればいいのか。「頭」でなく「腹」で決めればいいんだと思う。

 日本人は、人間には「頭」と「腹」の2つの判断器官があると感じてきた民族だと思う。そしてより重要なのは「頭」ではなく「腹」だと考えてきた。「頭にくる」と判断を誤り、物事を深く理解すると「腹落ち」する。日本語は、腹の重要性を示す表現であふれている。

「頭」の部分はAIのほうが優秀になるのだろうから、われわれ人間は「腹」で判断する力を取り戻していく必要があるのだと思う。また理詰めで考えることをAIに任せるようになればなるほど、われわれ人間は「腹」で直感的に感じたことをより大事にするようになっていくのだと思う。

「腹」で判断するということは、どういうことなのだろうか。実際に判断するのは「腹」なのだろうか。CPUは別のところにあり、「腹」はただディスプレイの役割を果たしているだけなのだろうか。科学的にはまだまだ分からないかもしれないが、「頭のいいエリート」が地球を滅ぼす前に「腹」で善悪を判断できる人が一人でも多くなってほしいし、そうなるんじゃないかなって思う。

 AIの進化が1つのきっかけになって、人間はより人間らしく、しかもより崇高な生物へと進化するんじゃないだろうか。楽観的過ぎるかもしれないけど、僕の「腹」は、そんな風に感じ始めている。

*2歩先の未来を創る少人数制勉強会TheWave湯川塾主宰
*有料オンラインサロン

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story