コラム

いつまで牛を殺すの?最先端バイオ技術で培養食肉を量産する日本発「Shojin Meat Project」始動

2015年11月18日(水)18時45分

途上国の食糧難から宇宙での食料調達まで、人工肉は必ず必要になる BIGSTOCK

 人間っていつまで、食べるために動物を殺し続けるのだろう。取材で屠殺場と牛肉加工工場を見学した経験があるが、これまでで最も後味の悪い取材だった。そのときはもう牛肉を食べたくないとまで思ったものだが、でも焼き肉が大好物だったりする。この矛盾こそが人間と言えばそれまでだが、できればこの矛盾を解消したい。ずっとそう思ってきた。

「技術的には肉の細胞を培養して増やすことは可能なんですよ」とShojin Meat Projectの代表の羽生雄毅氏は言う。牛の筋肉の少量の細胞を取り出して、バイオ技術で大量に培養すれば、もはや牛を殺す必要がなくなる。牛の餌を生産するための森林破壊も止まる。夢のような技術だ。研究室レベルでは、この技術は既に確立しているのだとか。バイオ技術はついにそこまで進化したのか。

 ただ「めちゃくちゃ高くなりますが」と羽生氏は笑う。オランダの大学教授が培養肉でハンバーガーを作って試食会を開いたというニュースが2年前に話題になったが、そのとき試食会に出されたハンバーガー1個の値段は、研究費込みで約3500万円だという。

 そこで量産技術を確立してコストを大幅に下げようという試みが幾つか始動している。ニューズウィーク日本語版でも10月19日付の「商品化迫る、人工ハンバーガー」と題する記事で、5年後の一般販売を目指すオランダの科学者グループの話を取り上げているが、日本で同様の目的で挑戦しているのがShojinmeat Projectだ。代表の羽生氏は化学博士で、彼のパートナーは農学博士だ。そのパートナーのバイオ技術を、羽生氏の化学のスキルで量産体制に持っていこうという試みだ。

「ポイントは低価格の培養液を開発することと、3D培養の技術を確立すること。それができれば、量産の体制を組めるはず。試作した培養液での筋肉細胞培養に成功するなど、どちらも目処が立ち、特許化へと動いています。市販されている食肉と同等レベルまで低価格化は可能だと思います」と羽生氏は自信たっぷりに語る。

課題は味と啓蒙

 問題は味だ。果たしておいしい肉が作れるのだろうか。

「肉のおいしさって、筋肉と脂肪の組み合わせ方で決まるんです。その組み合わせのノウハウは既に存在します。肉の成形のプロにもプロジェクトに参加してもらえれば、おいしい肉を作ることは可能です」と羽生氏は言う。

 確かに今でも成型肉は市販されている。筋肉と脂肪を霜降り状態に組み合わせた「霜降り風」の成型肉を食べたことがあるが、確かにおいしかった。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタン、トランプ氏をノーベル平和賞に推薦 印パ

ワールド

米がイラン核施設攻撃、トランプ氏「和平に応じなけれ

ワールド

米のイラン攻撃、各国首脳の反応 イスラエル首相「お

ビジネス

〔アングル〕イラン核施設攻撃、 原油高騰の可能性 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 2
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 7
    ジョージ王子が「王室流エチケット」を伝授する姿が…
  • 8
    中国人ジャーナリストが日本のホームレスを3年間取材…
  • 9
    イギリスを悩ます「安楽死」法の重さ
  • 10
    ブタと盲目のチワワに芽生えた「やさしい絆」にSNSが…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story