コラム

中国が傲慢な理由で強行した「モンゴル語教育停止」の衝撃

2020年07月22日(水)11時30分

そのため、1957年まで中国とソ連、それにモンゴル人民共和国のモンゴル人はキリル文字による表記を共有していた。しかし中ソが反目し合うようになると、中国は域内のモンゴル人のキリル文字使用を禁止し、促進派を粛清した。それ以降、内モンゴル自治区は伝統的な縦書きのウイグル文字を使い、中国政府も奨励していた。

近年、モンゴルは長く使ってきたキリル文字を見直し、ウイグル文字の使用を強化する政策を公表。このままでは両国のモンゴル人が同じ文章を読み、同一の思想を共有するようになる、と判断した習近平(シー・チンピン)政権はモンゴル語教育そのものの停止を命じる強権の発動に舵を切ったのである。

中国にすれば「成功」の前例はある。2009年7月に新疆ウイグル自治区のウイグル人蜂起を武力で鎮圧してから、ウイグル語教育は実質上ストップしたままである。児童期から中国語を話すようになれば、「中華を愛し、中華民族の一員」になる、との同化政策を推進する習政権は、それをモンゴル人の自治区にも適用してきたのだ。

果たして、モンゴル人の抵抗はどこまで続けられるのであろうか。

<2020年7月28日号掲載>

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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