コラム

韓国に対して、旧宗主国の日本がなすべきこと

2019年09月20日(金)15時35分

韓国の文在寅(右)にとっては民主主義より民族主義?(今年4月) KOREA SUMMIT PRESS-POOL-REUTERS

<朝鮮半島の2つの国家と付き合う上で、日本に欠けている視点が1つある。韓国人と称しようが朝鮮人と名乗ろうが、彼らは同一民族だ。本誌最新号「日本と韓国:悪いのはどちらか」特集より>

朝鮮半島の2つの国家と付き合う上で、日本に欠けている視点が1つある。それは彼らが同じ民族だ、という認識である。「同じ民族が他者によって分断されるほど悲しいことはない」というのが、2度の世界大戦を経た20世紀のコンセンサスだろう。ここでいう分断民族とは東西ドイツと南北朝鮮、それに内外モンゴルだ。
20190924issue_cover200.jpg
3つの民族の分断はいずれも、日本と関係している。米英ソは日本と同盟していたドイツとの戦争にほぼ勝利した1945年2月、クリミア半島のヤルタで日本帝国にいかに対処するかを議論した。日本の北方四島をソ連に「引き渡す」だけでなく、モンゴルを2つに分ける密約が交わされた。

モンゴル人民共和国はソ連と共に満州に進軍し、内モンゴルの同胞を日本の支配下から解放したものの、民族の統一は実現されず、逆に中国の統治下に組み込まれてしまった。当事者のモンゴル人にとっては、青天のへきれきだった。

日本が撤退した直後、朝鮮半島では2つの大きな政治勢力が拮抗していた。ソ連の後押しを受けて北部を支配していた共産ゲリラ軍と、満州国軍の青年将校らが結集して南部で樹立した親米・親日政権だ。前者のリーダーは金日成(キム・イルソン)。後者の中心人物は高木正雄こと朴正煕(パク・チョンヒ)だった。

第二次大戦後の戦勝国史観に即していえば、前者は「日帝と戦った正義の国」で、後者は「植民地体制から生まれた間違った国」。こうした歴史観が文在寅(ムン・ジェイン)政権の信念となっているのは事実で、それが外交政策として表れている。彼らにすれば、朝鮮民族の政治的分断は紛れもなく、日本の植民地統治がもたらした「積弊」だ。

ドイツ人は1989年に社会主義陣営の崩壊を利用して民族統一を実現した。いや、ドイツ民族の統一運動が全体主義解体の引き金になったと言ったほうが正確だろう。

内外モンゴルの場合、外モンゴルはソ連の衛星国にすぎなかった。内モンゴル人には中国から自治権が付与されたが、「日本に協力した罪」などで、66年からの文化大革命中に大量虐殺が行われた。当時150万人弱だったモンゴル人のうち34万人が逮捕され、2万7900人が殺害された。

大量虐殺はモンゴル人が中国国内で信用されず、分断されたが故の凄惨な運命を示している。今日、内モンゴル自治区には「民族問題がない」くらいモンゴル人は徹底的に抑圧されてきた。モンゴル人からすれば、民族の統一が実現しなかったが故に、他者に好き勝手に殺害されていることになる。

【参考記事】日韓が陥る「記憶の政治」の愚:どちらの何が正しく、何が間違いか

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story