コラム

日馬富士暴行事件で見えた、日本の相撲ナショナリズム

2017年12月23日(土)14時45分

「相撲は神事だから品格が求められる」との意見もある。しかし政治的ナショナリズムを帯びた「国技」に対し、過度に神事としての性質を強調するのは危うい。日本はいまだに政治と宗教が混然一体となった前近代的な国家だと見られかねない。

日本でのこうした過熱報道はモンゴル政治にも影響を及ぼしつつある。政界と結び付きが強いモンゴル人の元横綱・朝青龍と元小結・旭鷲山が、日馬富士暴行事件でそれぞれ加害者と被害者側に立って対立。結局、旭鷲山が非常勤で務めていた大統領補佐官を解任されてしまった。

北朝鮮による日本人拉致問題を解決しようと、朝青龍や複数のモンゴル人政治家の仲介で、日本政府は首都ウランバートルで北朝鮮と困難な交渉を続けてきた。国連でもモンゴル政府は常に日本の主張に理解を示す立場を取ってきた。「モンゴルに帰れ」という声が日本から草原にも届くにつれ、両国関係も壊れる恐れがある。

暴力は絶対否定すべきだが、同時に相撲ナショナリストによる言葉の暴力も許されない。日本は本当に20年の東京オリンピックを開催できるのか。国同士がぶつかる国際試合ではフーリガンなど排外主義的行動も懸念される。東京の競技場で、せっかく招いた外国人選手や観光客に対する「国へ帰れ」という声を誰も聞きたくないはずだ。

<本誌2017年12月26日号掲載>


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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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