コラム

日本領事「拘束」、ロシアの「特大ブーメラン」...露スパイが日本でやってきたこと

2022年10月01日(土)17時07分
ロシアスパイイメージ

stuartmiles99-iStock

<ロシアによる日本人外交官の拘束は明らかな条約違反だが、ロシアは日本でそれどころではないスパイ活動を幾度となく実施してきた>

ロシア政府は9月26日、ロシア極東ウラジオストクの日本総領事館の領事を、ロシアの機密にからむ情報を不正に入手したスパイ容疑で拘束したと発表した。そしてこの領事を「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましくない人物)」だと日本に抗議し、48時間以内の国外退去を命じた。

領事が拘束されていたのは22日のことであり、数時間にわたって拘束されてウラジオストクにあるFSB(ロシア連邦保安局)の事務所で取り調べも受けていた。連行の際には、領事は目隠しされたり、頭を押さえつけられるような扱いも受けたという。

公開された質問を受けている様子の動画を見ると、厳しい口調で罪を認めるよう促され、観念したように、容疑を認めている領事の姿が映し出されている。しかも途中、同席していた男性職員らしき人物が、電話の受話器を激しくテーブルに叩きつけるような場面もあり、緊張感も漂っていた。

くしくも27日に行われた安倍晋三元総理の国葬儀の前日に発表されたこニュースを受け、松野博一官房長官は記者会見でこう述べている。「当該館員がロシア側が主張するような違法活動を行ったという事実は全くない」「ウィーン条約および日ソ領事条約の明白かつ重大な違反であり、極めて遺憾。決して受け入れられない」

こうした顛末を受けてはっきりと反論したのが、駐日ロシア大使のミハイル・ガルージンだ。FNNプライムオンラインによれば、ガルージンは、ロシアメディアの取材に応じて、「日本の外交官は、その地位に反する行為をした。わが国の法律とウィーン条約に違反するものだった」と批判。その上で「日本の外交官によるこのような行為に対する謝罪と、こうした行動を今後慎むよう要求する」と述べたらしい。

ロシアが日本で繰り返してきたスパイ行為

ただ、日本はガルージンにそのようなことを言われる筋合いはない。と言うのも、これまで幾度となくロシア人外交官が日本国内で堂々と「スパイ行為」を実施してきたからだ。

少し過去を遡ってみても、2020年にはソフトバンクの社員だった人物が、ロシアの通商代表部の幹部職員(正体はSVR〈ロシア対外情報庁〉所属のスパイだった)にそそのかされてスパイに。判決文によれば、金銭と引き換えに同社の基地局での通信業務についての情報などの営業秘密を渡していた。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story