コラム

トランプをパリに招いたマクロン「おもてなし」外交のしたたかさ

2017年07月18日(火)17時30分
トランプをパリに招いたマクロン「おもてなし」外交のしたたかさ

Yves Herman- REUTERS

<フランスは今ほどアメリカとの協力・協調を必要としている時はない。高級レストランでの夕食会と、軍事パレードにおける特別待遇で、トランプ米大統領からの支援や協力が得やすくなるのであれば、これほど安い買い物はない>

アメリカ人にとってパリは格別のものらしい。パリを「移動祝祭日」と表現したヘミングウェイや、「パリのアメリカ人」を作曲したガーシュインと同じように、先週マクロン仏大統領の招きを受けフランスを公式訪問したトランプ米大統領も、パリの美しさに魅了されたに違いない。

トランプは、シャンゼリゼ通りで行われた7月14日恒例の革命記念日軍事パレードに参列し、マクロンとともに仏軍部隊を閲兵した。このパレードでは、アメリカの第一次大戦参戦100周年を記念して特別に招かれた米軍将兵も行進したほか、イラクとシリアにおける対「イスラム国」掃討作戦に従事する仏軍部隊も参加し、「テロとの戦い」における米仏協力の緊密さを印象付けた。

この前日に行われた首脳会談後の記者会見でも、両大統領は、両国の間に見解の相違がある気候変動問題や自由貿易問題などはさらりと受け流す一方で、「テロとの戦い」に対する両国の貢献をお互いに称え合い、米仏間の協調・協力を強くアピールした。マクロン大統領は、わずか数分間の冒頭発言の中で、「共通の」という形容詞を6回も使い、合同・共同・一致・協調・協力といった趣旨の言葉を17回も繰り返した。

フランスの「テロとの戦い」

その背景には、実際に、米軍とともにイラクやシリアでの軍事行動に従事する仏軍の存在がある。仏軍は、「シャマル作戦」の名の下で、2014年9月以降イラク国内における「イスラム国」の拠点に対し空爆を行っているほか、2015年9月以降はこれをシリア国内にまで広げ、今も、ヨルダンに置かれている仏空軍基地から発進する8機のラファール対地攻撃機が、GBU-49爆弾、SBU-38ミサイルなどで対地攻撃を繰り返している。また、2016年10月以降、仏陸軍砲兵隊の4門のセザール長距離砲(射程40㎞)がモスル近郊に配備され、イラク軍地上部隊を支援している。

仏軍事省の公表情報によれば、作戦開始以降2017年7月初めまで、空軍機の出撃回数は6,500ソーティにも上り、1,300箇所を攻撃した。これにより、イラクおよびシリアにおける2,000の軍事目標が破壊された。こうした仏軍の貢献は、米軍が主導する有志連合軍による空爆全体の7〜8%を占め、米軍(およそ90%を占める)に次いで2番目に大きい。

ルモンド紙の推計によれば、こうした仏軍による空爆で2,500人の「イスラム国」の兵士が抹殺されたと見られている。そのなかにはフランスから参加したテロ活動家や容疑者も含まれ、仏軍の攻撃の犠牲になっていることは想像に難くない。こうした、言わば超法規的な刑の執行が、むしろ仏軍の空爆の標的として行われていることは、公然の秘密となっている。

因みに、国際法上の根拠として、フランスは、イラクにおける「イスラム国」への攻撃は、イラクとの集団的自衛権の行使と説明し、シリアにおけるそれについては、イラクを防衛する行動の延長、および、フランスへのテロ攻撃に対する個別的自衛権(先制的自衛権)の行使と説明している。

こうした仏軍の主体的な貢献は、有志連合軍を主導するアメリカにとっても当然歓迎すべきことで、トランプ大統領とマクロン大統領が、お互いに称え合うのも無理はない。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学教授。専門は、現代外交論、フランス政治外交論、日本外交論。1980年京都大学法学部卒。同年外務省に入省。沖縄県サミット推進事務局長、外務省欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使、東京外国語大学教授などを経て、2019年から現職。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)、『オール沖縄VS.ヤマト』(青灯社、2014年)など。

ニュース速報

ワールド

EU、租税回避地ブラックリストにパナマなど追加 ト

ワールド

JALが新型肺炎で韓国・台湾便も減便、現地当局が日

ビジネス

英就業者数、10─12月も力強い伸び 賃金は減速

ワールド

台湾、クルーズ船の乗客退避へ チャーター便手配

MAGAZINE

特集:上級国民論

2020-2・25号(2/18発売)

特権階級が不当に罪を逃れている── 日本を席巻する疑念と怒りの正体

人気ランキング

  • 1

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 2

    新型コロナウイルス、人口2.6億のインドネシアで感染者ゼロの怪

  • 3

    インドネシア、巨大ヘビから妻救出した夫、ブタ丸呑みで立ち往生のヘビ救った男たち

  • 4

    新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、…

  • 5

    日本の「新型肺炎」感染拡大を懸念する韓国がまだ「…

  • 6

    韓国、キャッシュレス完了した国が進める「コインレ…

  • 7

    米共和党上院議員が中国を嘘つきと非難

  • 8

    今日も市場で生きてるコウモリ販売するインドネシア…

  • 9

    「37.5度以上はオフィス入室禁止」 日本企業もウイル…

  • 10

    新型コロナウイルス専門家会議、大規模イベント自粛…

  • 1

    新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、悪いのは中国人の「ゲテモノ食い」ではない

  • 2

    今年の春節は史上最悪、でも新型肺炎で「転じて福」となるかもしれない

  • 3

    マスク姿のアジア人女性がニューヨークで暴行受ける

  • 4

    中国の新型コロナウイルス危機は「チェルノブイリ級…

  • 5

    韓国、キャッシュレス完了した国が進める「コインレ…

  • 6

    「10歳の娘が裸でも同じベッドで寝る彼氏」これって…

  • 7

    「歯肉から毛が生えた」という女性の症例が世界で初…

  • 8

    BTSと共演した韓国人気子役がYouTubeで炎上 虐待さ…

  • 9

    インドネシア、巨大ヘビから妻救出した夫、ブタ丸呑み…

  • 10

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 1

    ゴーン逃亡のレバノンが無政府状態に、銀行も襲撃される

  • 2

    「歯肉から毛が生えた」という女性の症例が世界で初めて報告される

  • 3

    一党支配揺るがすか? 「武漢市長の会見」に中国庶民の怒り沸騰

  • 4

    ヒヒにさらわれ子どもにされた子ライオンの悲劇

  • 5

    マスク姿のアジア人女性がニューヨークで暴行受ける

  • 6

    新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、…

  • 7

    韓国で強まる、日本の放射能汚染への懸念

  • 8

    「武漢はこの世の終末」 チャーター機乗れなかった米…

  • 9

    訪韓日本人数が訪日韓国人数を上回った ......その内…

  • 10

    BTSと共演した韓国人気子役がYouTubeで炎上 虐待さ…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!