コラム

マクロン新大統領の茨の道-ルペン落選は欧州ポピュリズムの「終わりの始まり」か?

2017年05月08日(月)11時30分

もう一つの大きな課題は、今回の選挙で明らかになった、国民の間の亀裂の修復だ。

従来の大統領選挙では、2回投票制が必然的に左右2極対立構造を生みだしたが、決戦投票に向けて、両派とも中間層を取り合う形で、穏健化・中道志向の力学が働き、亀裂を埋める機能を果たした。

今回の大統領選挙では、上の図で示したように、争点が複線化し、伝統的な左右対立だけでなく、グローバル化への対応を巡る路線の違い・対立も組み合わさって、立場を異にする4つのグループがともに対立し合うという複合的な構図となった。この4つのグループの間にそれぞれ亀裂がある上に、上述したように、最も立場の異なる、完全に対極的な二つのグループ(マクロン派とルペン派)が決選投票に残ったことで、他の二つのグループ(メランション派とフィヨン派)が引き裂かれた。しかもそれぞれがバラバラのベクトルを示したことで、亀裂は埋まるどころか、逆に複雑化し、深まることとなった。ルペンが、決選投票に向けた選挙戦で急進的な路線の主張を崩さず、最終盤(5月3日のTV討論)ではむしろ強めたことも、亀裂をさらに深めることになった。

マクロンが全国民の大統領として、この亀裂を修復することは容易ではない。特に、ルペン派(および決選投票で、ルペンに引き寄せられたメランション派やフィヨン派)との間に、深まった亀裂は深刻であり、その修復は極めて難しい。

上の表で示したとおり、国民戦線の支持者は今や1,000万人を超える。この勢いで、6月の国民議会選挙で躍進することが予想され、50〜100の議席を獲得するとの推測もある。ルペンは、7日の敗北宣言の中で、捲土重来を期し、国民議会選挙での躍進を目指すと宣言した。現議会では2議席しかないのであるから、大きく勢力を伸ばすことは間違いない。

こうした国民戦線の影響力の存続と拡大を防ぐためには、ルペンのポピュリスト的な扇動に引き寄せられる国民、特にグローバル化に取り残され、忘れられていると感じている人々の怒りや不満を少しでも解消しなければならない。ルペンの処方箋ではなく、マクロンの処方箋が正しく、有効であるということを、かれらに示し、納得させなければならない。それができない限り、国民戦線の影響力は弱まらない。ルペンの落選が、欧州ポピュリズムの「終わりの始まり」になるかどうかは、マクロンの手腕にかかっている。

プロフィール

山田文比古

東京外国語大学教授。専門は、現代外交論、フランス政治外交論、日本外交論。1980年京都大学法学部卒。同年外務省に入省。沖縄県サミット推進事務局長、外務省欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使などを経て、2008年から現職。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

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