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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

あの主要な野菜が前月から55%値上げ、市民も衝撃隠せず

青空市でもスーパーマーケットでも値上がりは変わらない(photo by iStock)

たまには楽しい記事を書きたいなぁと思っているのだが、ここは無理せずリアルに肌で感じることを書きたいと思う。

私のブラジル生活は7年とまだ短いが、ここ一年のブラジルのインフレには驚きを隠せない。
先月、毎週通っている青空市に行って野菜を買おうとしたら驚愕の値札が目に入った。

ニンジン 12レアル /kg
(こちらでは野菜は量り売りが主流なので、このように記載される)

あれ?この前まで8レアル / kg だったのに... と何かの間違いかと思い、他のお店を見に行っても同じ値段。
パンデミック以降、ほぼ全ての物が値上がりアしている。買い物に行くたび値上がりしているのはわかっていたが、主要な野菜がここまで大幅に値上がりすると、さすがに動揺を隠せない。

|大幅値上がりはインターネット上でも話題に

帰宅して、同じマンションの住人にその事実を伝えると
「そう。みんなニンジンの値上げにびっくりして今ネットで話題になってるよ。」
と言われたのでSNSを見てみたら、私と同じように驚愕した人々が書き込みをしていた。

女優のルセーリア・サントスは
「みんな、たすけて!!!今日、ニンジン1kgに17レアル払ったの!!!びっくりしてる!」
とツイートし、多くの人がリプライで自分の街のニンジン価格と不満を漏らしていた。
「15レアル/kg、ニンジンはいつから贅沢品になったの?」 と「僕がうさぎじゃなくて良かった」なんて冗談を言う人もいる。

もちろん、メディアもニンジンの値上がりについて取り上げた。
ブラジルのニュースサイトG1はニンジンの価格が先月に比べて平均55.41%上昇したと伝えている。
サンパウロでは39.26%、エスピリット・サント州のヴィトーリアでは88.15%と激しい値上がりだ。

|ブラジルの食卓において主要な野菜ニンジン

ここで少し余談だが、ブラジルの食事について少しお話ししたい。
ブラジルの主食は米、豆、キャッサバ芋が中心と言われている。 昼食もしくは夕食は多くの人がこの豆の煮込みとご飯、メインとなる肉/魚/卵料理、そしてサラダか野菜の付け合わせを食べる。
野菜は茹でたり、蒸したり、比較的シンプルに調理されることが多く、その際に最もよく使われるのがニンジンである。

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Bolo de cenouraと呼ばれるニンジンケーキ(photo by iStock)

また、ニンジンを使ったケーキも人気あるおやつの一つとして多くの人に愛されている。
ニンジンをミキサーで潰し、小麦粉、卵などを加えて焼いたもので、上にチョコレートがかかっているのが定番。家庭でもよく作られるが、パン屋やバールと呼ばれる食堂、スーパーマーケットで購入することができる。
ニンジンの味は殆どしないが、生地がしっとりしていて美味しい。

|値上がりの原因は?

今年になってニンジンがここまで値上がりしたのはパンデミックではなく、昨年末からの豪雨の影響と言われている。
ミナスジェライス州、エスピリットサント州、サンパウロ州は作物に影響を及ぼすほどの大雨が降り、ニンジンの収穫量が激減し値上がりせざるを得なくなってしまった。 それに加え、値上がりが止まらないガソリンやディーゼルなど輸送費の高騰も1kg10レアル越えという驚異の価格設定に拍車をかけている。

|ラニーニャ現象によるブラジルの夏両極化

ニンジン畑に被害を及ぼしている大雨は、作物だけでなく私たち人間にも被害を及ぼした。
2月15日にはリオデジャネイロ州ペトロポリスで大雨による地滑りと洪水が起こり、232人が死亡、5人が行方不明、1000人以上が家を失う大惨事となった。
ミナスジェライス州では数ヶ月続いた大雨の影響で422の自治体が緊急事態の警報を鳴らしている。
一方で、南部は干ばつによって大豆畑に被害が出ているようだ。

ラニーニャ現象による気象の両極化は予報によると4月頃には例年並みに戻るだろうと言われているが、地球温暖化による影響もあると専門家は懸念している。そうなるとアマゾン地域の森林破壊問題で世界的に叩かれている現ブラジル政府は耳が痛いだろう。
このタイミングで今月9日には国民的アーティストのカエターノ・ヴェローゾが主体となってアーティストや活動家が環境問題に対する大規模なデモ抗議"Ato pela Terra"を国民会議議事堂の前で開催した。

|値上がりの最中、カーニヴァルは?

様々な原因で多くの食品、光熱費が目まぐるしい値上がりをする中、2月にカーニヴァルを迎えたブラジル。
前回の記事でストリートカーニヴァルは中止、コンテスト式のカーニヴァルは延期となったことを書いたが、実際は人が集まりストリートカーニヴァルは各地で自然発生していたようだ。
4月に延期されたコンテストに参加するサンバチームもカーニヴァル期間中に各練習会場に集まってお祝いをした。 不安を隠せない状況で行われたカーニヴァルには、かつてガス抜き的な意味合いが込められていたことを再確認させられる。

また、高額な入場料を設けた超豪華なシークレットカーニヴァルなども行われていたようで、ニュースで波紋を呼んだ。
一晩のパーティーに国の最低月収程する高い入場料を払える人たちにはニンジンの値上がりなど関係なさそうだ。ブラジルの社会格差の大きさを感じさせられる。

|ニンジンの次は?

ニンジン・ショックから一ヶ月、今月10日には石油会社ペトロブラスが燃料の大幅値上げを発表。
インフレ指数は更に上がるだろうと既に発表されている。
一部では既にトラック運転手の抗議デモが始まっており、2018年の大規模デモ*の悪夢が再び起こるかもしれないと、心配する市民の声もあがっている。

*2018年のトラック運転手による大規模なデモでは食品の価格高騰と商品不足、更には燃料不足によって仕事や学校に通う得ない人が出たりと市民の生活に大きな支障をきたした

そして、この国民の怒りの全ては今年行われるの大統領選挙に辿り着くだろう。
お隣チリの若きリーダー誕生による期待に満ち溢れたムードにブラジルもあやかりたいところだが、最新の調査では、ルーラ43%、ボウソナロ28%、シロ・ゴメスとセルジオ・モーロがそれぞれ8%ずつで、おそらく元大統領ルーラか現職ボウソナロの"二択"になってしまうだろうと言われている。パンデミックも徐々に落ち着いてきて、これから各候補者を応援する大規模なイベントが行われるだろう。
来年のニンジンの価格はどうなるのか、今は正直不安しかない。

 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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