World Voice

アルゼンチンと、タンゴな人々

西原なつき|アルゼンチン

法律を変えていくアルゼンチンの女性たちの強さ



もっと身近なところでも大きく影響し、現在はすっかり浸透しているのが、スペイン語の文法、男性名詞・女性名詞に対する問題提起です。
例えば、todos(=みなさん)は男性名詞であり、声を掛ける複数人全員が女性だった場合は todas になります。
「みなさん、こんにちは」と男女両方いる複数人に向けてする挨拶は、文法上正しいのは、
「Hola a todos」となります。
これは男性優位だという声があり、現在は大統領をはじめ
「Hola a todos y todas」と挨拶されることが一般的です。



そして、SNSでの個人の発信や日常会話の中などオフィシャルでない場、カジュアルなネットニュースなどでは、
「Hola a tod@s、todxs、todes」
と使われることも増えています。これが様々な名詞や冠詞に当てはめられ、

・Amigos/Amigas(=友達 の男・女名詞) → Amigues、Amigxs
・Los/Las esperamos(あなたたちを待っています) → Les esperamos、Lxs esperamos

と変化する、新しい文法 (Lenguaje inclusivo) なるものも出現しています。(これに関しては様々な議論があります。)
また、男女の呼称を並べるとき、例えば「お父さんお母さん」など、必ず男性の呼称が先に来ることが一般的であることに対し、あえて「お母さんお父さん」などと順番を逆にして表現されることもあります。


これらの発端となったのは2007年~2015年までの二任期を務めた、クリスティーナ元大統領(現在は副大統領)が、「わたしのことは Presidenta(="大統領"の女性名詞)と表示してください」とメディアに強く主張していたのがきっかけのひとつになっているようです。
辞書には男性の場合は Presidente、女性の場合は Presidenta と明確な記載がありますが、当時は女性大統領に対しても男性名詞が使われる(またはLa presidente)ということがあったようなのです。
これらの社会の変化、女性が声を上げていこうという風潮になっていったのは、彼女の存在も大きいでしょう。


そんなアルゼンチンの現在の問題は、フェミサイド(女性がDVなどで男性に殺害される)問題。
2020年の8か月に渡る外出禁止令下での家庭内でのDV、また2021年が始まってから約30時間に1人の女性がフェミサイドで命を落としている、というニュースは国内でも大きく取り上げられています。


在住年数はたった7年ですが、自分の身近で何度も、ひとりひとりの声が社会や法律を変えていく様子を目の当たりにしています。身近な友人や仲間と一緒に議論したり、これらの運動に参加する中で、アルゼンチン女性たちの強さに感動しています。勿論、女性だけでなく男性でもこれらの運動に賛同しているフェミニストは周りにたくさんいます。
この国では、男女も職業も関係なく、SNSなどでも政治や国の出来事に意見することは一般的です。とは言えこの複雑な国のことや政治のことについて意見すると、「外国人のくせに、音楽家のくせに」と声が聞こえてくることもありますが、私もこの国に住む社会の一員として理解を深めながら、賛同できるものには声を上げ続けていこうと思っています。

 

Profile

著者プロフィール
西原なつき

バンドネオン奏者。"悪魔の楽器"と呼ばれるその独特の音色に、雷に打たれたような衝撃を受け22歳で楽器を始める。2年後の2014年よりブエノスアイレス在住。同市立タンゴ学校オーケストラを卒業後、タンゴショーや様々なプロジェクトでの演奏、また作編曲家としても活動する。現地でも珍しいバンドネオン弾き語りにも挑戦するなど、アルゼンチンタンゴの真髄に近づくべく、修行中。

Webサイト:Mi bandoneon y yo

Instagram :@natsuki_nishihara

Twitter:@bandoneona

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