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NYで生きる!ワーキングマザーの視点

ベイリー弘恵|アメリカ

「ないなら自分で作る」から始まったアメリカ発のクラフト七味 シェフ 野原木綿子

©Nimbus Works LLC  

アメリカで手に入る本格的な日本の七味唐辛子は高価だ。「ならば自分で作ればいい」そう考えた野原木綿子(のはらゆうこ)は、独自に調合したスパイスを全米で販売できる体制を整えた。

これまで屋号「いなわら亭」として、自宅サロンへ人を招いたり、出張シェフとしても長年活動してきた野原。今回の、販売開始にあたり、化学調味料や保存料をいっさい使用しないこだわりのスパイスについて、語ってもらった。

Hiroe
なぜアメリカでスパイスビジネスを始めたのですか?

Nohara
元々は販売を考えていませんでした。
薬味が好きな自分が、和式の七味の入手に困る状態だったのです。
「それなら自分で作ってみたらいい」と思って作ったものを、周囲におすそ分けしたところ好評になりまして、販売する形になりました。

Hiroe
このアイデアに至ったきっかけは?

Nohara
そもそもは「スパイスカレー」に興味を持ち、ルーを使わないカレーを作り始めたことです。
友人を通して、ニューヨークのストリートイベントで開催された水野仁輔さん(※1)のイベントに関わらせていただくことがあり、スパイスに対しての興味と敬意が深くなりました。

そこから、調べていくうちに世界中に「スパイスミックス」があることを知り、「日本のクラフトスパイス」である七味に興味を持ちました。

Hiroe
起業前はどんなキャリアでしたか?

Nohara
大企業の事務員、大手アパレルの販売員、イラストレーター、ウェブデザイナー、画家...などなど、数えると色々ありますね。

Hiroe
転機になった出来事は?

Nohara
大きいものではないです。
薬味好きの自分がアメリカで手に入れられるものには限界があるので(入手経路や価格など)「自分で作ったらいい」と思ったからです。
ただし、日本でしか手に入れられないものではなく、アメリカで恒常的に手に入れられるもので作ろう」と、思いました。

Hiroe
どんなスパイスで、何が独自性ですか?

Nohara
基本的には日本の「七味」です。
ですが、日本独自の素材は入手しにくいため、特に「山椒」は日本のものではありません。日本の山椒と、アメリカで手に入る山椒は種類が違うのです。
わたしは中国の山椒の二種類と、チベットの山椒を使い分けています。

完全な手作りであり、ここがおそらく一番の長所です。

Hiroe
日本的な要素はどこに反映されていますか?

Nohara
日本のクラフトスパイスである「七味」です。
自分の好みにブレンドしてくださるお店もありますね。

伝統的な7つの素材(場合によってはもう少し増えます)を、アメリカで手に入る素材で仕上げます。これはわたしが日本人だからこそできることです。
全体的な香りと味、そして色を重視しています。色はとても大事です。同じ辛味の唐辛子でも、色が悪ければ使いません。

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Hiroe
ターゲットは誰ですか?

Nohara
在米邦人には「和食には七味を使いたい」という方が多く、親しみを持ってお買い上げくださいます。

そして、日本文化に興味を持ち、実際に日本へ来訪した方々。
「これは七味ですよ」と言うと「京都で買ったことある、美味しいよね!」と感激してくださる方がいます。

ヒスパニックの方にも「メキシカン」風味の七味にとても興味を持っていただき、実際に購入して、美味しかったとのご感想をいただきました。
お肉にすり込んで調理して、お楽しみくださった方もいます。

おそらく、スパイスミックスに興味がある方には、面白く感じていただけるのだと思います。

Hiroe
実際の販売現場では、どんな反応がありますか?

Nohara
日本が好きな方だと、『京都で買ったことがある』『食べたことがある』と話してくださることも多いです。そういう記憶がある方は、すっと興味を持ってくださいます。

一番面白かったのは、ホリデーマーケットで出会ったインドの方です。試食を出したら、まず香りを嗅いで『うん』、別の種類もまた香りを嗅いで『うん』と。もしかしたらスパイスマスターだったのかもしれません(笑)。

最後には買っていってくださって、『あなた、本当にスパイスが好きよね』と同伴の女性に言われてたのが印象に残っています。

Hiroe
アメリカでは七味は手に入りにくいのでしょうか?

Nohara
日系スーパーに行けば、七味があります。けれど、香りの深いものはとにかく高いので、気軽には買いにくい。メーカーが出している七味は便利ですし、親しみやすいです。でも、私が求めていたのは、もっと香りが立って、素材ごとの表情が感じられる七味でした。

Hiroe
立ち上げで最も苦労した点は?

Nohara
地味に広がっている商品なので、今がまさに苦労の最中です。できるだけ露出を増やすように模索中です。
昨年にはカリフォルニアのレイキマスターMiho Matiasさんとのコラボから生まれた一品もあり、彼女から広めていただいておりまして、ありがたいことです。私はアメリカで食品を販売できる許可をとり、現在は全米に販売可能です。

ですが、これまでの苦労といえば、素材を安定させることでしょう。特に七味は必要な素材が多いですから「これならいける」と思ったものが、次のターンでは手に入らないなど、手作りならではの苦労はあります。
今は選定し、安定しておりますので、ご安心を。

Hiroe
手作りならではの苦労は、ほかにもありますか?

Nohara
いま6種類ほど展開していて、夏の間は1か月に2、3種類作ることもあります。普段は1回の仕込みで15袋から20袋くらい。量にすると20オンスほどでしょうか。売り切れそうになると、やっぱり焦りますね。

以前、カリフォルニアのレイキマスターとの取り組みでは100袋単位で動いたこともありました。パッケージング自体は2日ほどで進んでも、実際にはその前の材料集めがいちばん大変です。

Hiroe
販売方法について教えてください。

Nohara
通販しています。アメリカ国内でしたら、どこでも買えますし、発送もしています。認可も取りました。日本へ持って帰ること自体は大丈夫なのですが、問題は送料ですね。

いちばん安い郵送でもTシャツ1枚送るのに33ドルかかりますから、七味そのものの値段より送料のほうが高く感じられることもあって、そこは悩ましいところです。

Hiroe
アメリカ市場で感じたギャップは?

Nohara
大きくは感じませんが、アメリカ市場では「試食」、要は「試してもらう」ということが強いかな、と思います。
お客さまの体験や記憶によって「七味」ですぐに購入に結びつくことはありますが、ほとんどの場合、お試しが肝要かと思います。

Hiroe
たしかに、香りや味は試してみないと伝わりにくいですね。

Nohara
そうなんです。特にヒスパニックの方は、香りを一つひとつ確かめながら選んでくださることがあります。メキシカン風のスパイスは、スモークパプリカやガーリックパウダー、いい材料が入るときに作るのですが、辛さは控えめでも、香るとメキシコを思わせるような仕上がりになります。タコスに合うと喜んでくださる方も多いですね。

Hiroe
日本人女性としての強み/壁はありましたか?

Nohara
とてもご苦労なさっている方々がいるとは存じていますが、わたしにとって、苦労したことは「パートナーと同時に滞在資格を取ること」でした。
強みは特に自覚していませんが、純粋な日本人であることを望まれることがあります。
特に、余命わずかな方(アメリカ人)に「ちらし寿司」を作らせていただいたことは、今も深く心に残っています。

幸いなことに、壁を感じることは少ないです。
下手くそな英語でもなんとかなっていますし、わたし個人は、差別的な行動をされたことはありません。

Hiroe
食へのこだわりも、ものづくりに影響していそうです。

Nohara
ありますね。私はこれまで、ヴィーガンからペスカタリアンまで、自分で試してきた時期があります。だからこそ、それぞれの食事で"何が足りないのか"がわかるんです。ヴィーガン食は物足りなくなりがちな部分もあるので、添加物を使わずにどう満足感を出すかは常に考えています。

普段の調理の際には、電子レンジは使わないですし、素材選びもかなり気にします。肉もオーガニックのものを選びます。

Hiroe
どちらでお肉や野菜を調達されているのですか?

Nohara
地元で見つけた無農薬のトマト農家さんとの出会いも大きかったです。Facebookで"オーガニックのトマト売ります"という投稿を見つけて、車で行ける距離だったので訪ねました。そこから毎年、200パウンドくらいのトマトをソースに加工しています。そのトマトソースを使うと、市販のルーを使わず、自分で調合したスパイスだけで作るカレーが本当においしいんです。

Hiroe
今後の展開とビジョンを教えてください

Nohara
大きなものは特にありません。広まるものなら広まるでしょう。
手作りの良さ、大切さを感じてもらえたら嬉しいです。
わたし自身は、今の環境でパートナーと幸せに暮らしていくことそのものが望みです。可能なら、また猫を迎えたいです。

Hiroe
とはいえ、新しい構想もあるそうですね。

Nohara
カレーのスパイスは企画中です。いわゆるカレールーではなく、もっと自由に、ルーを使わないで作れるものを考えています。どう量産するか、どうしたら"大多数の人が食べておいしい"と思えるところに持っていけるか、そのあたりを考えるのは楽しいですね。

夏の短い時期にしか取れない、とても辛い素材を使った新作も考えています。そうやって、季節の素材や土地の出会いから新しい味を思いつくのが、この仕事の面白さかもしれません。

Hiroe
初めての人におすすめの使い方は?

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Nohara
和風や中華風の麺や炒めもの、炒飯はもちろん、焼きそばも!
ちょっと変化球ですが、質の良いバニラアイス(フレーバーなどが一切なしのバニラアイス)にかけてみてください。ポップコーンやフライドポテト、ピザにもいいですよ。

実は、チーズにのせても美味しいですよ。
特に黒七味は、お醤油系に合います。ステーキにも合うんです!

野原さんの作るクラフト・スパイスミックスSeventh Heavenはこちらから購入可能です。

【プロフィール】野原 木綿子 のはらゆうこ〈通称 Commy〉 料理人 2001年に渡米、米国東海岸を拠点に「いなわら亭」として活動。家庭料理の延長にある食事会やケータリングを長年手がけ、「ご恩送り」の精神で食卓を囲む場をつくり続けてきた。もともとの薬味好きが高じ、「アメリカで質の良い七味は高価でなかなか手が出ない、ならば自分で」と作り始めたのが、2024年に始動したクラフト・スパイスミックス「Seventh Heaven」のきっかけ。日本の「七味」の伝統を軸に、ゆずや黒七味、タイ、メキシカンなど6種のブレンドを展開。アメリカで手に入る素材にこだわり、すべて手作業で調合、全米に届けている。

※1 水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー研究家・料理人・作家。スパイスから作るカレーの魅力を広めた第一人者で、レシピ開発や著書、イベントなどを通じて、日本におけるスパイス文化の普及に大きく貢献している。

©Nimbus Works LLC(掲載写真すべて)

 

Profile

著者プロフィール
ベイリー弘恵

NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。

NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com

ブログ:NYで生きる!ベイリー弘恵の爆笑コラム

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