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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

パブで上手に「ラウンド」したい

 初めてのレッスン後に誘われてパブに行ったとき、入口で立ち話をしていると、誰かに「何を飲む?」と訊かれてすぐに、飲み物がすっと差し出された。あれ、誰が払ってくれたんだろう?

 きっとラウンドだろうと察しはついたけれど、でも8人もいるのよ。夕方5時に飲み始るとはいえ、全員がひと晩で8杯飲むわけでもないだろうし、どうなっているの? どうしたらいいんだろう? 周りはあまりに当然という顔をしているので、なんだか質問しにくい。うーむ。

 結局その日は、周りが2杯目を飲み始めるタイミングでパブを出て、家で夫に相談した。下戸の夫はパブや酒には圧倒的に経験不足であまり頼りにならないながら、2人で考えて、まずは様子をみることになった。

 その翌週も、店に入ってあたふたしているうちに、わたしの手にはあっという間にハーフパイント(284ml)のビールのグラスが渡された。その次の週もだ。

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モダンでおしゃれな店にも、くたびれた店構えの地元の店にも、パブにはカウンターがあって、ここで注文をすることになる。この資料写真はわたしたちが毎週行く店のカウンターによく似ている。写真shutterstock_Paolo Paradiso

 彼らがラウンドに慣れているからなのか、わたしがもたもたしているのか、気がつくといつも、仲間の誰かがパブのカウンターの前に立ってこちらを振り返っている。時間の都合上、わたしは1杯で切り上げることが多いので、自分のラウンドを果たすとしたら、猛ダッシュしてでも誰より先にカウンターに到着するしかない。気合いだ!

 歌のことよりパブでのラウンドばかりを考えながら、ごちそうになり続けること5週間。今日こそはと決意して、パブまでの歩道で仲間を追い越して店に突入した。勇んでカウンターに向かうと、ロビンがもうカウンターの前に立っていて、「何にする?」と訊ねてくるじゃありませんか! 負けた! というか、わたしはロビンを追い越していなかったのか!

 でも、このまま引き下がるわけにいかない。わたしの決意も固いのだ。

 「ロビン、今日はわたしが払おうと思ってたの」気合いの割にはおずおずした口調になった。ロビンは、「じゃあ2人で割ろう!」とにっこり答えた。会計の金額を2人で半分ずつ払うのだ。そんなパターンもあるんだ!

 でもこれで、「8人いたら8杯飲むのか?」問題がすっきりした。8人分を2人で払えば一回分の負担も減るし、2人が「自分が払った」と思える。それに、もし全員に順番が回ってこなくても、また翌週会うのだから、そのとき払えばきっとラウンドはじゅうぶんに成立するのだ。

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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