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ベネルクスから潮流に抗って

岸本聡子|ベルギー

東京オリンピックから考える 組織のトップと改革と

クレジット:tadamichi

私の周辺では一言で言うとあまり取り上げられていない。日本を含めて国の威信や経済力を誇示し続けたい大国にとっては、オリンピックは様々な思惑があるのだろうが、ベルギーやオランダ、スカンジナビアの小国にとってはそれほどの意味もない。オリンピックの開催年も場所も知らない人も多いと思う。オランダではスピードスケートやボート競技、ベルギーでは自転車競技に多少の熱があるくらい。陸上、体操などで時として才能溢れる選手が現れるが、それぞれの国際競技大会で活躍している。サッカーのナショナルリーグ、チャンピオンズリーグ、ワールドカップなどへの情熱とは比べ物にならない。

それでもオリンピック組織委員会、森元会長の性差別と辞任劇はかなり取り上げられた。オリンピックそのものよりも、こんな前時代的な女性差別を許す日本のスポーツ界、ひいては日本社会が懸念された。この件で、ジェンダーギャップ指数121位の日本の暗部を、国際社会にはっきりと効果的に伝えることになった。国際人権団体は「日本の性差別に金メダル」とあまりにも的確に言った。それだけに批判の高まりによって、森さんを辞任させた事実は、とても重要だった。ロイター通信がNO YOUTH NO JAPANの能條さんを「沈黙しない22歳」とフィーチャーした記事は世界中のメディアが再掲載し拡散した。日本社会も女性も黙ってないというメッセージを国際的に発信できてひとまずよかった。

私はコロナの前から一貫して、日本は東京オリンピックより、やらなければいけない大切なことは山ほどあると思っている。そもそも時代遅れの経済刺激策、環境破壊、大規模かつ不公平な利権配分と汚職に、世界のトップアスリートたちが利用されるのは痛々しいと思っている。皮肉にも今回の件で、日本社会の封建的な性差別が明らかになり、私は初めて国際大会オリンピックの有効性を見た。日本の外にいる私が東京オリンピックを論じたところで大した意味もない。せっかくなのでこの機に組織(改革)においてトップが退く意義について考えようと思った。

翻って自分の所属する小さな組織を見る。私はオランダにある政策系NGO(非営利財団)で働いている。ジェンダーについていえば、組織のトップふたりは女性、次のレベルのリーダーシップは7人のうち5人が女性。スタッフ35人のうち6割半が女性だ。数の上ではジェンダー平等は実現している。それでもオリンピック組織委員会と同様、組織的な問題は山積みで、改革の道筋は険しい。折しも、この仕事場で5年に一度の組織改革が進行中だ。

そもそもこのような組織の根幹に関わることをどのように議論するかという方法論からして難しい。そして合意形成し、実行のための道筋や役割分担までもっていかなくてはならない。執行部がトップダウンで戦略を決めるのは、効率がいいかもしれないが、うちのような社会的な目標を掲げるNGOにはそぐわない。みんなが自分事として納得しなければ、結局のことろ改革は進まない。だからと言って何でもかんでも、時間やコスト感覚抜きで永遠に議論し続けるわけにもいかない。

非営利組織の目標設定や組織改革を専門とするコンサルタントに約300万円を投じて、全14回のワークショップを半年かけて行うデザインを作った。それに35人のスタッフすべてが参加するので、その労働時間も合わせると組織としての投資額は相当だ。昨年からパンデミックが世界を襲って、社会は大きく変わった。変化のスピードは早く、予測も難しい時世だ。シンクタンクとしてここは踏ん張り時、組織に大胆な投資をしなくてはいけない。

今、その道半場で、私も同僚たちもかなり息切れしている。というのも改革を主導するトップ(女性)が、いったん決めたことを覆したり、何時間も議論を引き延ばしたり、問題を誰かのせいにしたり、周りを巻き込んで体力を消耗させている。コンサルタントもお手上げとなり、一時休止している。誰よりも思い入れが強く、時間を費やし、責任を背負うトップ。ストレスといら立ちがオンライン画面からでもはっきりとわかる。

私から見ると、残念ながら彼女自身が改革の障害になってしまっている。批判的思考や新しい発想を、彼女は自分への非難、組織への文句と受け取って、建設的な議論を阻止してしまう。女性でも男性でも、組織のトップには否応なく権力が集まるので、周りは振り回される。中堅のスタッフは無力感が全体に広がらないように必死で、疲労する。

退くことが改革に一番貢献すると自分で認めることは森さんだけでなく誰にとっても究極的に難しい。退くことで、新しい空気を入れ、空間を作り、新しい文化を生むと認めるのもリーダーシップだと、ひとまず自分の肝に命じる。

 

Profile

著者プロフィール
岸本聡子

1974年生まれ、東京出身。2001年にオランダに移住、2003年よりアムステルダムの政策研究NGO トランスナショナル研究所(TNI)の研究員。現在ベルギー在住。環境と地域と人を守る公共政策のリサーチと社会運動の支援が仕事。長年のテーマは水道、公共サービス、人権、脱民営化。最近のテーマは経済の民主化、ミュニシパリズム、ジャストトランジッションなど。著書に『水道、再び公営化!欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(2020年集英社新書)。趣味はジョギング、料理、空手の稽古(沖縄剛柔流)。

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