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カリフォルニア法廷だより

伊万里穂子|アメリカ

94歳の現役裁判官も──求人募集の年齢制限はアメリカでは違法行為

Alvarez-istockphoto

日本の新聞記事か何かで早期退職を迫る上司。面接で繰り返される、「で、残ってどうするの?」というプレッシャーというような恐ろしいものをちらっと読みかじりました。

日本に帰って驚く事は色々ありますが、求人募集に年齢制限が明記してあるのには驚きます。

アメリカはそれは年齢での差別と捉えられ、違法行為です。また男性女性募集というのも性別への差別ですからこれまた違法行為です。

そんなこと言ったって、受付嬢が欲しいんだから、30歳以下女性って書いて何が悪い、と思われるかもしれませんが、それは差別で違法行為なのです。

なので、50歳のおばさんだろうがおじさんだろうが応募する前に門前払いはできない事になっています。

そして定年退職という観念もありません。何歳まででも働ける限り働ける。数年前に亡くなりましたが、94歳まで現役の裁判官もいました。何歳だろうと本人が辞めたくないなら、辞めさせる事などはできません。私が裁判所で働き始めた頃もうその裁判官は80歳を超えていて、運転が危ないというので路面電車を使って通勤していました。

近代史の教科書に載っている戦争には全部行って生きて帰ってきた。とか色々謎な噂の多い謎の裁判官でした。

その後、奥さんが亡くなられてからは登庁回数も増えていました。

80歳を超えたあたりから、毎日案件を聞くような法廷の勤務からは外されていて、オフィスで逮捕状や捜索状にサインをしたり、短い裁判の案件などあまりハードではない法廷を任されていました。

それでも90歳を越えても毎日のように登庁していました。その裁判官の書記官はランチの時間に冷蔵庫からお昼を出してきて、裁判官のデスクにランチやお昼の薬を並べ、じゃあごゆっくり、ともう半分保母さんのようでした。

一日で1番ドキドキするのはランチの後、午後の部の前に裁判官のオフィスに行ってお昼を片付けるのに妙に静かだったりするともしかして亡くなったんじゃあ、と焦る、とまあ他の書記官にはないストレスがあるようでした。

そしてこの裁判官、長いキャリアの中で刑務所に送り込んだ人数は数知れず、その報復を恐れて拳銃を必ず持っていました。ヨボヨボで真っ直ぐに歩くのも大変そうな老人が腰に片側だけ重そうに拳銃をつけているのも色々な意味で怖いものです。

私たちサポートスタッフは大体55歳がリタイアの目安です。55歳まで勤めて大体勤続年数が30年だとリタイアした後も今までの月給が8割程度毎月払われる、という退職金のシステムなので、大体55歳でリタイアしますが、それはこちらが望んで退職するわけで、上司から残ってどうするの?なんて圧をかけられるわけではありません。

私も60歳前にはリタイアできるといいなと思っています。この仕事を始めてから15年付いていた裁判官は去年73歳で退官して、その後「プライベートジャッジング」というプロの調停をする仕事についています。家にいてもやることないし、なら裁判に行く前の案件を調停する係になって法廷外で調停できないかするのなら、今までの経験を活かせるし、得意分野だから、とまだ働いているわけです。こういう調停係は退役した裁判官だと箔が着くのです。

そんな感じでアメリカには定年退職がありません。いつまでも金銭的な事で働くのも辛いですが、上司に「残ってどうするつもりなの」なんてイジメられる心配がないのはありがたい事です。

 

Profile

著者プロフィール
伊万里穂子
大学中退後カリフォルニアに移住。海外で手堅い職業をと思い立ち公務員に。裁判所の書記官になる。勤続18年目たった一人の日本人書記官として奮闘中。ブログ「リフォルニア法廷毒舌日記で日々社会の縮図とも言える法廷内で繰り広げられる人間模様を観察中。著書:「お手本の国の嘘」新潮新書

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