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NYで生きる!ワーキングマザーの視点

ベイリー弘恵|アメリカ

米国立衛生研究所より研究費を獲得しニューヨーク大学歯学部で口腔疾患の遺伝子治療研究をする山野教授

©iStock

──先日、ニューヨーク大学歯学部の山野教授は米国立衛生研究所(National Institutes of Health, NIH)から長期高額研究費($2.9M/5年間)を獲得されたそうですね。おめでとうございます。

今回は、そのテーマでもあるがん性疼痛に対する遺伝子治療研究を中心に話を伺いたいと思います。遺伝子治療に用いられている遺伝子導入技術は、最近話題になっているCOVID-19ワクチン技術にも応用されているとのことで、後日そのワクチンについてまた詳しく伺う機会があれば嬉しいです。

では早速ですが、医療関係者じゃない私のような人にもわかるレベルで噛み砕いて遺伝子治療について説明していただけますか?

「はい。まず、遺伝子治療とは病気の本体に迫る画期的な医療の一つで、 今までの対症療法的な医療とは根本的に異なった角度からのアプローチなのです。

多くの病気は、生体遺伝子の欠損や変異などにより遺伝子の発現異常(過少もしくは過多)から引き起こされることが分かっています。遺伝子治療は、生体内で発現異常を起こしている遺伝子量を正常に調節することで、病気を治すという治療法のことです。この研究は、僕が米国に来て以来20年以上続けているライフワークテーマです。

人間の細胞は無数のタンパク質でできていて、ホルモンや伝達物質などもタンパク質から成っています。そのタンパク質は遺伝子という設計図を元に作られていて、染色体に織り込まれています。その遺伝子情報発現に従って、たとえばタンパク質Aをコードする遺伝子が発現すればタンパク質Aが作られ、タンパク質Bをコードする遺伝子が発現すればタンパク質Bが作られるのです。

わかりやすく言えば、料理のレシピ本みたいなものですね。ハンバーグができるまでのレシピみたいに、ひき肉、玉ねぎ、卵、パン粉、牛乳、塩、コショーといった情報が記録されているように。

先天性疾患の一つに血友病という病気があります。それは、血が固まるために必要な血液凝固因子の一つが、生まれながらに欠損しているんです。その原因は、血液凝固タンパク質をコードする設計図である遺伝子が欠損しているため、そのタンパク質が作れないということが分かっています。

また、がんという病気は、元々正常な遺伝子が放射線などの修飾を受けて発現・構造・機能に異常をきたし、その結果、正常細胞のがん化を引き起こすことをいいます。その一つに、あるがんに関係しているがん遺伝子といわれる遺伝子が過剰発現し、がん細胞タンパク質が過剰に産生されます。(産生:細胞で物質が合成・生成されること)つまり、先ほどの必要なタンパク質が欠如している血友病とは逆のパターンですね。

さて、ここで私からの質問です。どのように治療すればいいと思いますか?」

──シンプルに考えれば、あるタンパク質が不足しているのであれば、サプリメント補給のようにそのタンパク質を補給すればよいのではないでしょうか?

「そうですね。足りないのならそのタンパク質を入れましょうっていうのも良い考えですね。血友病の場合は、血液凝固因子タンパク質を投与すればいいですよね。それは今まで行われている医療の基本ですよね。

それに対して、遺伝子治療はタンパク質を入れる代わりに、その設計図の遺伝子を入れて、生体内でタンパク質を作らせるのです。

なぜ余分なステップが増える遺伝子を入れるのか?って疑問に思うかもしれないですね。

タンパク質というものは、生体内に投与されると様々な酵素などによって分解されて数日以内に壊れてしまうんです。タンパク質は、お肉や牛乳と同じなので、室温で置いておくとすぐに腐ってしまいますよね。つまり、患者さんは、数日おきにそのタンパク質投与を受け続けなければならないのです。

遺伝子投与の場合は、細胞内に取り込まれると、その遺伝子がコードしているタンパク質を長期的に作ってくれます。つまり、ワンショットするだけでず〜っと作ってくれるので、タンパク質投与のように何度も治療受診する必要がないのです。

──遺伝子のワンショットでず〜っとタンパク質が作られるというのはありがたいのですが、万が一、間違った遺伝子の情報を入れてしまった場合はどうなるのですか?

「それはとても良い質問ですね。遺伝子投与とひと言で言っても、遺伝子を入れる細胞は様々です。唾液腺細胞に遺伝子治療を施す場合について例をあげると、唾液腺は上皮細胞で囲まれた固形組織ですので、悪性化やコントロール不能の遺伝子発現など何らかの予期せぬ変化が起こってしまった場合は、切除するという方法があります。唾液腺は、耳下腺、顎下腺、舌下腺という大唾液腺とそのほかに無数の小唾液腺があるので、一つくらい切除しても機能にはほとんど影響しません。

さらに近年では、もっと洗練された方法が開発されていて、抗生物質などの特定の薬剤を投与した時(期間)だけ入れた遺伝子が発現するというコントロール技術で、安全面でもかなり改良・進歩しています。

もう一つ、遺伝子治療を理解する上で、欠かせないのが遺伝子の運び屋と呼ばれるベクターというものがあります。遺伝子はマイナスに帯電して、生体の細胞膜も、マイナスなので反発しあって容易には遺伝子は細胞内に入っていかないのです。そこでベクターというパッケージに遺伝子を入れて細胞内に運ばせるのです。ベクターには、ウイルスベクターと非ウイルスベクター(人工化合物)の2種類あります。

ちなみにCOVID-19ワクチンにアストラゼネカ社やジョンソン&ジョンソン社が使っているのがアデノウイルスベクターで、ファイザー社やモデルナ社が使っているのがナノ脂質粒子にポリマーを混ぜた非ウイルスベクターです。因みに、私の研究室では既存の業者で販売しているものより効率的かつ安全なオリジナルの非ウイルスベクターを3種類開発して、使っています。遺伝子治療において、このベクターの最適な選択が成功の鍵といわれています。

次回につづく(次回は、遺伝子治療についての核心に迫ります!)

Yamanosan.jpg

©Seiichi Yamano

【プロフィール】
山野精一(やまのせいいち)

90年日本大学歯学部卒業、94年東京医科大学大学院修了・医学博士取得後、同大学助手口腔外科。97年からメリーランド州にある全米最大の医学研究機関NIH(国立衛生研究所で基礎医学研究唾液腺による遺伝子治療に4年半従事後、04年ペンシルベニア大学歯学部卒業・歯学博士と米国歯科医師免許取得、07年ハーバード大学歯学部大学院卒業・医科学修士と補綴専門医取得。07年よりニューヨーク大学歯学部助教授補綴科16年よりニューヨーク大学歯学部准教授(補綴科)。

 

Profile

著者プロフィール
ベイリー弘恵

NY移住後にITの仕事につきアメリカ永住権を取得。趣味として始めたホームページ「ハーレム日記」が人気となり出版、ITサポートの仕事を続けながら、ライターとして日本の雑誌や新聞、ウェブほか、メディアにも投稿。NY1page.com LLC代表としてNYで活躍する日本人アーティストをサポートするためのサイトを運営している。

NY在住の日本人エンターテイナーを応援するサイト:NY1page.com

ブログ:NYで生きる!ベイリー弘恵の爆笑コラム

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