コラム

バイデンの副大統領候補者「カマラ・ハリス」選択の死角

2020年08月14日(金)19時10分

初の黒人女性副大統領候補者として注目を集めているが...... REUTERS/Carlos Barria

<バイデン元副大統領が自らの大統領選挙のランニングパートナーとして、「カマラ・ハリス」上院議員を選択した。筆者は「バイデン陣営の慢心」がもたらした選択と見ている...... >

バイデン元副大統領が自らの大統領選挙のランニングパートナーとして、「カマラ・ハリス」上院議員を選択した。同人事が発表されて以来、メディアでは初の黒人女性副大統領候補者として持ち上げる報道ばかりだ。

一見するとハリスという選択がバイデン陣営に勢いをもたらすかのように錯覚してしまうが、筆者はこの選択は「可もなく不可もない」選択、むしろ「バイデン陣営の慢心」がもたらした選択と見ている。

カマラ・ハリスの強みとは

カマラ・ハリスが選ばれた理由のメインは、彼女のアイデンティティによるものだろう。インド系・ジャマイカ系のハーフであり、2016年大統領選挙でヒラリーが黒人からの票を失って敗北したことに対する反省が生かされている。また、バイデンの女性スキャンダルを打ち消すためにも女性副大統領候補者は絶対条件であった。そして、彼女のカリフォルニア州司法長の経験は、現在の黒人殺害事件に対する抗議運動に端を発する混乱状況を収拾するための警察改革の面からも注目されるキャリアだ。

しかし、率直に言って、カマラ・ハリスの強みとはこの程度のものであり、2020年大統領選挙を乗り切るため、必要な最低限の素養を持った人物であるに過ぎない。民主党が当初想定していた候補者条件のラインをクリアする選択ではあるものの、彼女の共和党側に大きく切り込む力や左派を強烈に動員できる力には疑問符がつく。

カマラ・ハリス自体は前述の通り黒人ではあるものの、父は大学の経済学者、母はがんの研究者であり、エスタブリッシュメントの家庭の生まれだ。そして、その夫もユダヤ系の裕福な弁護士である。投票履歴などは民主党リベラルに忠実な履歴は持つものの、左派系からのカリスマ的な支持を集められる人物ではない。

また、上院議員経験はあるものの、任期1期目の途上に過ぎず、外交・安全保障に関する知見が十分にあるわけでもない。仮にバイデンが何らかの形で大統領職を退く場合になった際、その職務を代行できる能力が十分にあると証明できておらず、副大統領の職を任せるのは明らかに過剰評価だろう。その明快なキャラクターは切れ味はあるかもしれないが、見方によってはヒラリーと同じ嫌味が漂うところもある。

現在の優勢と党内事情を両立させる守りの選択を選んだ

バイデンが幾多の有色人種候補者の中からハリスを選んだのは、それが党内の雰囲気として政治的に無理をせずに選べる候補者だったからだろう。実際、バイデン選対の幹部にも予備選終了直後から元ハリス選対幹部が加わっていたことからもあり、カマラ・ハリス副大統領候補者推しは一定のコンセンサスがあったように目されている。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story