コラム

「耳をすませば」の舞台、青春の記憶呼び起こす多摩の丘

2019年03月22日(金)14時30分

◆『耳をすませば』の町へ

03061.jpg

聖蹟桜ヶ丘・ゆうひの丘展望台

03062.jpg

聖蹟桜ヶ丘の住宅地

この米軍施設とゴルフ場地帯を越えるには、長い上り坂の一本道(川崎街道)をひた歩くしかない。小一時間ほどの単調な歩きを経て多摩市に入ると、眼下に多摩ニュータウンの住宅地が広がった。丘の斜面には立体的に一軒家が並ぶ住宅地が広がり、眼下には川と私鉄の線路、そして遠くに都心のビル群や山が見える・・・。そう、ジブリ作品のファンにはすぐにピンと来ると思うが、アニメ映画『耳をすませば』(1995)の世界である。

と言いつつ、実は僕はジブリ音痴で、『耳をすませば』を見たのは、この旅の後、原稿を書く直前のことだ。原作の漫画とはストーリーが少し異なるようだが、映画版の『耳をすませば』は、端的に言えば、大人への一歩を踏み出す時期の中3の主人公の女の子と男の子の「希望の物語」である。卒業を控え、恋する二人は、それぞれの歩む道を見つける。そして、ラストシーンで丘の上から町を見下ろし、夢を果たすためにいったん別々の道を歩むけれど、一人前になったら再会して結婚しようと誓い合う。決してベタベタした恋愛ものではなく、主眼は少年少女の自立への過程に置かれている。

少年は、バイオリン職人になりたいという夢を叶えるためにイタリアに留学し、彼に刺激を受けた文学少女の主人公は、小説を書き、それが大好きであること、しかし、今の自分はまだまだ勉強不足であることを痛感し、高校に進学することを決心する。『調布ゼミ』の塾長が子どもたちに身につけて欲しいと思っているのは、受験のテクニックなどではなく、こうした地に足がついた自立心なのだと、僕は確信する。

◆ウエスト・トーキョーのカントリー・ロード

03071.jpg

百草園

03076.jpg

百草園

『耳をすませば』の街、聖蹟桜ヶ丘の先の百草園(もぐさえん)周辺は、より武蔵野のローカル色が強い雰囲気だ。この旅第一号の牛舎もあった。このあたりは里山の名残が色濃く、ちょっとした山道を街の格好をした人が歩いているという、都会でも山間地でも見られないシュールな光景にもお目にかかることができる。

『耳をすませば』では、米シンガー・ソングライター、ジョン・デンバーの「カントリー・ロード」が劇中歌的な挿入歌として使われており、主人公の少女が邦訳を試みた際の副産物である替え歌が、少年との出会いのきっかけになる。その歌詞が秀逸で、かつては豊かな里山だった多摩丘陵に対する、地域住民の思いが垣間見える。

"コンクリート・ロード どこまでも 森を伐り 谷を埋め 西東京(ウエストトーキョー)多摩の丘(マウントタマ) 故郷は コンクリート・ロード"

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ワールド

再送フーシ派がイスラエル攻撃、イエメンの親イラン武

ワールド

再送-UAEのアブダビで5人負傷、火災も発生 ミサ

ワールド

タイ新政権、来週発足へ アヌティン首相が表明 

ビジネス

中国の大手国有銀3行、25年の利益ほぼ横ばい 不動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 2
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 3
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のSNS動画が拡散、動物園で一体何が?
  • 4
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 5
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が…
  • 8
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 9
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 10
    「酷すぎる...」ショッピングモールのゴミ箱で「まさ…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 10
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story