コラム

国連を舞台に、サイバースペースをめぐって大国が静かにぶつかる

2015年09月15日(火)17時08分

国連はサイバーセキュリティを解決できるか Carlo Allegri - REUTERS

 2015年8月、国連でサイバーセキュリティについて議論していた政府専門家会合(GGE)の報告書がオンラインで公開された。

 国連総会の下には六つの専門委員会が設けられており、第一委員会は軍縮・国際安全保障を扱っている。その第一委員会の下にサイバーセキュリティに関するGGEが設置されている。

 GGEは、サイバーセキュリティだけでなく、これまでも武器貿易条約や宇宙活動などを検討するために招集されたことがある。GGEとは、「政府専門家」による会合だが、政府専門家とは各国政府の中で当該専門分野に詳しい外交官というのが実質的な位置づけである。日本の外務省には「サイバー政策担当大使」というポストがあり、GGEの交渉に参加している。大使といっても大使館があるわけではなく、霞が関の外務省本省に執務室があり、外務省の総合外交政策局が大使のスタッフとなっている。

 GGEは、国連総会の下にあるといっても全ての国が参加できるわけではない。GGEの設置提案国や常任理事国などを中心に、地域バランス等を考慮しながら決められる。国連事務総長が決めるということになっているが、実質的には国連事務局が決めており、決定プロセスはブラックボックスだという批判もある。

4回目の国連サイバーGGE

 サイバースペースに関するGGEが開催されたのは、すでに4回目である。初めて開催されたのは2004年から05年、第2回目が2009年から10年にかけて行われている。第3回目は2012年から13年にかけて行われた。そして、今回の第4回目が2014年6月から始まり、2015年1月、4月、6月にオフラインの会合を開いて報告書を採択した。日本は第3回に続き、第4回の交渉にも参加した。

 第4回サイバーGGE報告書の論点は、主に4点である。

・ ICTの利用において、国家は、国際法の原則の中でも、国家主権、平和的手段による紛争解決、他国家の国内問題への不干渉を守らなくてはならない。
・ 国際法の下における既存の義務は、国家のICT利用に適用され得るものであり、国家は、人権と根源的な自由を尊重し守るために、それらの義務に従わなければならない。
・ 国家は、ICTを使って国際的に間違った行為を行うために代理人(プロキシー)を使ってはならず、そのような行為をするために非政府主体によって自国の領域が使われないようにしなければならない。
・ 国家のICT利用に際してのそのセキュリティについて対話を促進し、責任ある国家の行動のための国際法と規範、ルール、原則の適用に関する共通理解の進展において、国連は指導的な役割を担わなければならない。

 これらは、当然といえば当然の話である。むしろ、なぜこんなことを今さら合意しなくてはならないのか不思議な気もする。しかし、既存の国際法がサイバースペースに適用されるのか否か、新しいルールや国際法がサイバースペースのために確立されるのか否かが、サイバーGGEでの議論の焦点の一つになっており、それを確認するための合意である。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正-米、イランのフーシ派支援に警告 国防長官「結

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story