コラム

国際化すればするほど、「空気」を読めなくなった日本人

2023年05月12日(金)13時48分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
スマホ

VEERASAKPIYAWATANAKUL/ISTOCK

<LINEなど文字中心のコミュニケーションは日本の「白黒つけない」気遣いの文化を変えるかもしれないが、必要以上の同調圧力や忖度を求める風潮も改めるなら嘆かわしくないのでは?>

日本は「ハイコンテクスト文化」だと言われることがある。日本語のコミュニケーションでは言語外の情報、すなわちその場の状況や相手の立場から意味を理解する必要が多い。だからハッキリと言わず「におわせる」ことができる、という趣旨だ。

実はこの考えは学術的に実証されておらず反論も多いのだが、例えとして挙げられる事例はなんとなく納得させられてしまう。近所の住民同士が交わす「いい天気ですね、今日はどちらまで?」「ちょっとそこまで」といった会話はまさに日本的だと思う。

これが欧米なら「どちらまで?」と聞くと「Itʼs none of your business(あなたには関係ない)」と言われかねないが、日本では意味深な表情で「ちょっとそこまで」と伝えることで「あなたには言いたくない気持ちをくみ取ってね」と暗に言える。「一を聞いて十を知る」ことを求めるわけだ。

私が生まれたイランもどちらかというとハイコンテクストの文化だと思うが、一を言っても四~五しか理解されないことはよくあった。

だが主観を承知で述べると、昨今、日本ではむしろハイコンテクストの逆、言語での伝達を重視する「ローコンテクスト化」が進んでいると感じる。パンデミックのせいで対面でのコミュニケーションが減ったせいだろうか。

特に若者たちはLINEやメッセンジャーで、短い文章で要点を伝えることにたけている。社内で隣同士の席で働いているにもかかわらず、チャットでのみ会話する若手社員もいるくらいだ。彼らのメッセージや求める回答は具体的で、私が会社員時代に困った上司の「あれ、やっといて」といった「察する」ことを要求する言い方と大きく異なる。

日本が契約社会、成果主義に変わりつつあることも、ローコンテクスト化の原因ではないかと考える。友人に外資系企業で管理職を務める女性がいるが、10代の娘が何に悩んでイライラしたり落ち込んだりしているのか、話し合っても理解できずにいた。

そこで娘の習い事の先生に相談すると「説明させるのではなく何を言葉で表現できないのかを探り、そのもどかしさに共感してあげるとよい」とアドバイスされたという。友人は自分の頭が凝り固まっていたことにショックを受けていた。

つまり長年企業で勤めるうち、毎年目標を決めてその達成具合でのみ評価される、白黒がハッキリつくローコンテクスト文化が染み付いてしまい、娘の多感な時期の、言葉にならない不安定な気持ちを理解できなくなっていたことに気付いたそうだ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン国会議長、米国との協議実施を否定

ビジネス

ユーロ圏消費者信頼感指数、3月は‐16.3 原油高

ワールド

米エネルギー長官、戦略石油備蓄の追加放出は「可能性

ワールド

イランとの予備的協議は「非常に良好」、イラン側も和
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 2
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」した──イスラエル首相
  • 3
    「胸元を強調しすぎ...」 米セレブ、「目のやり場に困る」黒レースのドレス...豊胸を疑う声も
  • 4
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 5
    スウェーデン次期女王ヴィクトリア皇太子、陸軍訓練…
  • 6
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 7
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記…
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    100年の時を経て「週40時間労働」が再び労働運動の争…
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story