コラム

コロナ危機でも日本人が求める「安心、安全、安定」

2020年04月02日(木)17時10分
西村カリン(ジャーナリスト)

EDGARD GARRIDO-REUTERS

<3月16日、マクロン仏大統領は20分間の演説で6回も「戦争中」と言った。フランスの政治家は強い言葉を使い、日本の政治家がそうしない理由とは>

2月から、ほぼ全世界で新型コロナウイルス感染症が流行している。同時にこの新しい病気についての情報が幅広く報道されている。ただ、いくつかの言語が読める人は混乱するだろう。危険性の認識に関して、温度差があるからだ。

東京で暮らしている私は、周りの状況だけ見れば、それほど心配にならない。今までほぼ普通に過ごしていて、特に変わったことはない。最も困ったのは、学校の一斉休校だ。音楽教室もしばらくお休み。長男は勉強より遊ぶ時間が長くなり、子供の精神に影響はないのかと心配になった。それに保育園と学童保育は普通に子供を預かっていた。こんな中途半端な措置は意味があったのか。正直言って疑問だ。

日本での感染者の数を調べたら、比較的少ない。増えてはいるが、爆発的に増えてはいない。退院した人も多く、死亡率も低い。医療機関がパンク状態にはなっていない。安倍晋三首相の3月14日の記者会見の冒頭発言は、国民を安心させる内容が多かった。海外のニュースや他国の首脳の演説を見ない限り、新型コロナウイルスは大した問題ではないと人々は結論してしまう。

日本の感染者が例外的に少ないのは、仮説にすぎないが、ある程度、政府が取った措置が効いているからだ。日本人はフランス人やイタリア人などと比べて他人の体をあまり触らない、キスや握手をしない、以前から手洗いやマスク着用の習慣がある、交通機関ではあまりしゃべらないし携帯電話での通話もしない、といったことも理由だろう。ただ、感染の有無を調べるPCR検査を幅広く実施していないので、無症状の隠れ感染者がいる可能性は否定できない。

自分の国であるフランスやイタリアの状況について、ニュースを見ると怖くなる。フランスは3月17日から数週間、全国で外出禁止。いつまでこの厳しい措置が続くかは分からないが、人の姿がないパリや他の街の映像を見ると泣きそうな気分だ。3月16日にテレビで放送されたエマニュエル・マクロン大統領の演説を聞くとさらに恐怖。20分間の演説で大統領は6回も「戦争中」と言った。

なぜフランスの政治家は今回、「戦争」や戦争の時によく使われる言葉を使うのか?そうしないと誰も政府の言うことを聞かないからだ。フランス人は個人主義者で、自分で判断して行動しがち。最初の頃、マクロンはもっと普通の言葉を使っていたが、結果的に誰も政府の勧告に従わなかった。本人もショックを受けて、いかに深刻な状況であるかを示すために、もっと強い言葉を使わないといけないという結論に達した。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、国産長距離ミサイルでロシア領内攻撃 成

ビジネス

香港GDP、第3四半期改定+3.8%を確認 25年

ワールド

ロシアが無人機とミサイルでキーウ攻撃、4人死亡・数

ビジネス

インタビュー:26年春闘、昨年より下向きで臨む選択
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story