コラム

ドイツの選挙が静かすぎる理由──投票支援ツール「ヴァールオーマット」とは何か?

2021年07月29日(木)11時45分

ヴァールオーマットのルーツ

1985年、アムステルダムの公共・政治問題研究所(Instituut voor Publiek en Politiek: IPP)は、オランダの政治教育の手段として「StemWijzer」を開発した。当初は紙のバージョンとして、後にフロッピーディスクのデジタル形式で発表され、1998年以降はインターネット上で動作し、さまざまな選挙に向けてオンラインで公開されてきた。2017年に2度の選挙が行われた時には、約700万人に利用された。オランダの人口が1,720万人であることを考えると、これは傑出した数字である。

オランダで最も成功した投票アドバイス・アプリケーション(VAA)であるStemWijzerに加えて、同等のプロジェクトが他の多くの国でも見られるようになった。VAAは、ヨーロッパのほぼすべての国で確立されており、1つの国に複数のツールが存在する場合もある。ヨーロッパの国境を越えた選挙のために定期的に提供されているさまざまなツールもある。さらに、この種のツールは、北アメリカと南アメリカの国々だけでなく、アフリカやアジアのいくつかの国々でも見つけることができる。

民主政治の砦

いずれにしても、こうした投票支援ツールを有権者がどれだけ真剣に利用してくれるかが問われている。ドイツのヴァールオーマットの最初のアプローチは、しばしば遊び心のあるツールだった。それが次のステップで、有権者の真剣な議論につながった。これを可能にしたのは、政党の真摯なオファーの内容とデザインが重視されたことである。ユーザーフレンドリーで使いやすいインターフェースは不可欠だった。

ドイツや欧州選挙で標準化された投票支援ツールの成功実績を考えると、投票に行かない有権者を真剣に政治に振り向かせるには、民主主義を守るための努力が必要である。これには民間だけでなく、ドイツのように、国の責任で投票支援を実行することが求められているのかもしれない。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story