CIAが視る世界 グレン・カール
トランプを支配する「サムライ・ニッポン」的価値観を理解せよ
<トランプの外交は常に恫喝と曖昧さと矛盾に満ちている。誇りと名誉にのみ重きを置く「マフィアのボス」的リーダーシップは、往々にしてトランプの「空白」を利用して自分の政策を実現しようとする部下を引き付ける> アメリカの力により、腐敗した現体制を倒してほしい──イランで拡大している反政府デモの参加者たちは、トランプ米大統領が行動を起こすことを切望している。 しかし、イランに関するトランプの発言は、(毎度の話ではあるが)恫喝と曖昧さと矛盾に満ちている。当初、米軍は「準備万端」で、「もうすぐ助けが向かう」とデモ隊に請け合っていた。しかし程なく、トーンダウン。「(イラン政府がデモ参加者を処刑すれば)極めて強い措置を取るが、差し当たり処刑は停止されていると聞いている」と、最近述べた。 イランに限った話ではない。トランプ政権は1月初めにベネズエラで軍事作戦を実行し、マドゥロ大統領を拘束してアメリカに移送した。その際、トランプはアメリカがベネズエラを「運営」すると述べたが、実際にはマドゥロ政権の幹部たちが政権にとどまっている。そもそもトランプは、いわゆる「ドンロー主義」を打ち出し、南北アメリカ大陸以外の地域に介入することを拒否する姿勢を示していた。 トランプの発言と政策は矛盾していたり、一貫性を欠いていたりするように見える。トランプの外交政策は孤立主義的とは言い切れず、そうかといって帝国主義的とも言い切れない。「国際秩序」に関するいかなる概念にも当てはまらないように思える。 ===== 意味を持つのは取引、自尊心、そして個人的な忠誠心 --> 意味を持つのは取引、自尊心、そして個人的な忠誠心 実は、外交や国際政治の概念でトランプを分析しても正しい理解は得られない。ジェームズ・コミー元FBI長官の言葉が核心を突いている。「トランプのリーダーシップで大きな意味を持つのは、取引、自尊心、そして個人的な忠誠心だ。私が昔、マフィアのボスを摘発していた頃を思い出す」 トランプは、過ぎ去りし時代の世界観の持ち主と言える。その世界観の下では、権力と地位の土台を成すのは名誉と敬意であり、力関係を確立するのは暴力的な言葉と物理的な暴力。庇護と忠誠を通じて関係は強化される。ただし、格下の側は恩を忘れず、立場をわきまえなくてはならない。 トランプがロシアのプーチン大統領のような強権型の人物と接近する理由はここにある。トランプ流の世界観においては、強権的なリーダー以外は「弱者」にすぎず、民主主義は、弱者が強者に足かせをはめる手段と見なされるのだ。 トランプを大統領執務室のアル・カポネだと考えれば、ベネズエラやイランに対する姿勢も、「勢力圏」や「勢力均衡」に関する主張も全てつじつまが合う。トランプの世界では、政策は二者間の「ディール(取引)」に終始し、プーチンやイーロン・マスク、ジェフ・ベゾスといった強権型の人物だけが、ボスであるトランプとのディールを通じて恩恵を得ることができる。 ===== 政策として追求したい目標はない --> 政策として追求したい目標はない トランプ流には、もう1つ見落とせない側面がある。いくつかのことを本能的に好んだり嫌ったりするのを別にすれば、トランプには政策として追求したい目標はほとんど、もしくは全くない。その結果、ルビオ国務長官やネオコン派の側近などの政権幹部たちがアメリカの外交政策を形づくることが可能になっている。メンツを重視するトランプの考え方から大きく逸脱することさえ避ければ、キューバやベネズエラ、イランの体制転換を目指すなど、幹部たちには自らが重んじる政策目標を追求する余地が生まれるのだ。 トランプは、近代以前のシチリア島や徳川時代の日本のように、誇りと名誉に重きを置く世界で生きている。それはディールが大きな意味を持つ世界でもある。そのような世界において、外交はゼロサムゲーム的な発想で自己の利益を追求することを通じてしか、安定を生み出せない。 【関連記事】 【Newsweek対談動画】地経学で見たトランプ政権の成績表(鈴木一人・東京大学公共政策大学院教授) 【Newsweek対談動画】ベネズエラの"次"を読む(前嶋和弘・上智大学教授) 世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手がベネズエラ投資に慎重な理由
2026.01.23