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強制送還前の「カネの奔流」...不法移民が本国へ送金ラッシュ、トランプ政権の皮肉な誤算

Money Migration

2025年10月22日(水)17時00分
ヘスス・メサ(政治担当)、レオナルド・フェルドマン(ホワイトハウス担当)
トランプの移民政策が生んだ「送金ラッシュ」 RMCARVALHO/GETTY IMAGES

トランプの移民政策が生んだ「送金ラッシュ」 RMCARVALHO/GETTY IMAGES

<トランプの移民排除が厳しさを増すなか、中南米出身の不法移民による本国への送金が、史上最高レベルに達している>


▼目次
排除強化がもたらした「送金ラッシュ」
仕送りがつくる依存体質

いまアメリカでは不法移民たちが、国外退去になる前にできるだけ多くの金を本国に送ろうと躍起になっている。そのため、経済が不安定な中南米の国々には巨額のマネーが流入している。

「いつ何が起こるか分からないから、たくさんの金を送っておきたい」と、エクアドル出身の不法移民でニューヨークの飲食店で働くケビン・Mは言う。「祖国に借金が残っている。早く返済したい」

今年1月に第2次トランプ政権が発足して以来、自主的な出国を含めて既に200万人以上が国外に退去し、このうち約40万人が強制送還だった。この不穏な空気が、不法移民を母国への送金に駆り立てている。

排除強化がもたらした「送金ラッシュ」

金融ITメディアのPYMNTSによれば、アメリカから中南米諸国への送金額は今年、前年比8%増の1610億ドルに上る見込み。ホンジュラスやグアテマラ、エルサルバドル、ハイチといった国の家庭では、国外からの送金が最大の収入源である場合も多い。ホンジュラスでは今年1〜8月の送金額が前年比25%増だった。

「今のうちにできるだけ送金しようという方針は、それぞれの家族でしっかり決めたものだ」と、シンクタンクのインター・アメリカン・ダイアログ(ワシントン)の研究員マニュエル・オロスコは言う。

オロスコによれば、アメリカからの1回の平均送金額は約300ドルから400ドル近くにまで増えた。「この傾向が来年まで続くとは思えない。今は送金平均額が平均収入を超えている」

仮に送金額が減れば、中南米諸国の経済に打撃を与えかねない。オロスコによればグアテマラの場合、送金額が5%減るだけでGDPを1%押し下げる。

一部の移民は、出稼ぎのために何度もアメリカに渡るのを避け、また仕送りへの税負担が増えるのを恐れて、今のうちにまとまった額を送ろうとしている。「みんな貯金を取り崩している。年内が期限だと思っているから」と、オロスコは言う。

メキシコは長年にわたり、アメリカからの送金額が中南米で最も多かったが、今年は前年比5.8%減になると予測されている。エコノミストらは要因として、移民人口の高齢化やアメリカへの新規入国者の減少を挙げる。

「皮肉な話だが、トランプが強制送還と送金課税で最も脅しをかけたがっている国々で、短期的に増収がもたらされている」と、オロスコは言う。


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