「韓国のトランプ」李在明、ポピュリズムで掴んだ勝利の代償とは?

SOUTH KOREA’S TRUMP

2025年6月6日(金)15時42分
木村 幹(神戸大学大学院国際協力研究科教授、本誌コラムニスト)

しかしこの政治的スタイルは、京畿道知事を辞し、2回目の大統領選立候補をする頃には大きく変化する。

理由は大統領選への立候補に先立って、このベーシックインカム政策における財政的裏付けの不在や、それが貧困層のみならず富裕層に対しても行われる「ばらまき」であることが、対立候補者たちから強く批判されたからである。

結果、この選挙中に李はベーシックインカムに関わる自らの主張を大幅に後退させる。

理由はある意味単純だった。22年大統領選の共に民主党予備選挙で、李は当初から最有力候補と目されており、攻撃されるポイントを排除して無難に選挙戦を乗り切れば、候補者として生き残ることが可能だったからである。


その選択はもろ刃の剣だった。なぜならそれが「青年配当」から始まったことに表れているように、李のベーシックインカム政策は当時の韓国政治において、中道・無党派層の大きな比重を占めている若年層を対象としており、それこそが彼の政治的強みの1つだったからである。

こうして看板政策を降ろした李には、政敵に対して激しい言葉を向けて批判する「韓国のトランプ」としての顔だけが残された。批判を向けられた人々は彼に対する不信感を募らせ、いつしか李は「韓国で最も嫌われる政治家」というおよそありがたくない異名を取ることになった。

22年大統領選における李の尹に対する惜敗も、ベーシックインカムの断念により、選挙の帰趨を握る中道・無党派層の支持を得る手段を失ったことが原因の1つであり、それこそがこの時点での李の政治家としての限界を示していた。

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