「韓国のトランプ」李在明、ポピュリズムで掴んだ勝利の代償とは?

SOUTH KOREA’S TRUMP

2025年6月6日(金)15時42分
木村 幹(神戸大学大学院国際協力研究科教授、本誌コラムニスト)

韓国の政治状況がそのまま安定的に推移し、当初予定されていた27年に大統領選を迎えていれば、冒頭で述べたような法的疑惑をも抱える李が当選できたかは疑わしい。

しかしここで李に「神風」が吹いた。それは尹による戒厳令宣布の試みである。後に憲法裁判所が認定したように、尹による試みが重大な憲法違反であったのは明らかだったから、李はこれをたたくことにより自らの存在をアピールできた。

併せて、与党の国民の力が弾劾に反対し、さらに大統領候補者として弾劾に明確に反対の意を示した金文洙を選んだのも彼にとっては好材料となった。


こうして行われた今回の大統領選で、李は自らのライバルとなった金と国民の力に、冒頭の討論会発言のように「内乱陰謀勢力」とレッテルを貼り、これを徹底的に糾弾する戦術を取った。

そこで示されたのは、今日の韓国の苦境は全て彼ら「内乱陰謀勢力」による悪しき支配の結果であり、彼らを追放して自らが主導権を握れば全てがうまくいくのだ、という驚くほどに単純化された世界観だった。李は事実上、このメッセージ一本でこの選挙戦を乗り切った。

残った武器は政敵の糾弾だけ

中道・無党派層を含め、韓国国民の過半数は尹による戒厳令宣布を好ましく捉えていなかったから、李はこの単純で分かりやすいメッセージで一定以上の支持を得ることができた。

それは李の「韓国のトランプ」、つまりはポピュリストとしての真骨頂であり、他方では尹と国民の力が理想的な悪役の役回りを演じてくれた結果だといえた。保守勢力との対話の可能性は一切示されず、その排除のみが強調された。

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出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

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