最新記事
フランス

フランス政変の行方――盟友バイルー新首相が導くマクロン政権の終焉の始まり

2024年12月19日(木)12時08分
山田文比古(名古屋外国語大学名誉教授)

色々な説がメディアを賑わしているが、最も大きな理由と考えられるのは、バイルーが、マクロンの進めてきた新しい中道路線を換骨奪胎してしまい、バイルー流の古い中道路線に引き戻してしまうことを、マクロンは恐れたのではないかということだ。

マクロンとバイルーの中道路線には違いも

マクロンの中道路線(マクロニズム)は、社会民主主義をベースにして、進歩的、リベラル、都会的、ポストモダン、グローバル、未来志向、政治手法はスマートでエリート的な、若い世代の新しい中道路線と形容できる。

これに対し、バイルーの中道路線(バイルーイスム)は、キリスト教民主主義をベースにして、牧歌的、保守的な価値観と近代的な価値観が共存する中道、政治手法は泥臭く、庶民的、属人的アプローチを好む、古い世代の中道路線と形容できる。

第五共和制下のフランスでは長く左右二極対立の構図が続き、中道派はその間で埋没した小さな第三勢力の存在でしかなかったが、そうした中でバイルーはずっと中道の旗を掲げ、政権の座を目指してきた。

「右でも左でもない」ことを標榜したマクロンの登場で、フランスの中道はようやく日の目を見ることになり、バイルーはその波に乗って、マクロンを支えることで、永年の念願であった中道政権を実現した。

しかし、今やマクロン政権の政治力は大きく低下してしまった。

そうした中で、中道政治家の重鎮として長いキャリアと実績を持ち、左右両派の領袖たちと対立しながら共存・協調してきたという経験を持つバイルーの存在が、大きくクローズアップされている。

それに反して、マクロンの影はますます薄くなって行かざるを得ない。

マクロン時代の終わりが始まったのだろうか。


山田文比古
名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

東部要衝ポクロフスクで前進とロシア、ウクライナは包

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米株安の流れ引き継ぐ 

ビジネス

世界のヘッジファンド、55%が上半期に仮想通貨へ投

ワールド

米政府機関閉鎖巡り与野党の対立解消見えず、7日に1
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中