朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だった...解放されたアゾフ大隊兵が語る【捕虜生活の実態】
THE STORY OF KIRILL, A RUSSIAN PRISONER

「聞いてはいけない質問だ」
筆者がキリルのことを知ったのは開戦の年、彼の妻に出会ったのがきっかけだった。2022年5月3日、ザポリッジャ州にある避難者受け入れ施設に世界中のメディアが集まった。ロシア軍に包囲されたマリウポリから避難できずにいた住民が脱出した、との知らせを受けてのことだ。
炎天下の夕刻、8台ほどのバスがやって来た。一番右のバスから幼い子供を抱いた女性が出てきた。マリウポリで教師をしていたアンナ・ザイツェバ(当時24)と生後6カ月の長男スビャトスラフだった。アンナの母ラリーサは砲撃によるけがで、腕に包帯を巻いていた。家族はたちまちカメラマンに囲まれた。避難者の多くが名前の公表を伏せるなか、家族は実名での取材に応じた。
「2カ月もの間、製鉄所の地下に避難していました。この子と一緒に」と話すアンナは65日間の避難生活で体重が10キロ減っていた。爆撃の振動で脳震盪になったこともあるという。
アンナの夫はどうしているのか、気になって尋ねてみた。すると、隣にいた女性記者が口を挟んだ。「それは聞いてはいけない質問だ」。どうやら彼女の夫はウクライナ軍の兵士で、今もマリウポリで戦っているらしい。そのことが知れわたると、母子は格好の拉致対象者としてロシアのスパイに狙われてしまうという。
何という過酷な運命だろうか。この家族の再会を見届けたい、そんな思いが湧き上がってきた。
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