最新記事
オーストリア

オーストリア総選挙で元ナチス党員が作った極右政党が第1党に

Far-right set for Austrian election history 79 Years after Nazis lost power

2024年10月1日(火)16時30分
ジェイソン・レモン
オーストリア自由党のキクル党首

オーストリア自由党のヘルベルト・キクル党首(9月29日、ウィーン)  REUTERS/Leonhard Foeger

<連立の行方はまだ不透明だが、移民反対でロシア寄り、ウクライナ支援反対という自由党の主張は国政にも影響を与え始めている>

オーストリアでは9月29日に総選挙が実施され、野党「自由党」が第1党となる見通しだ。ヨーロッパで極右政党が第1党になるのは、ナチスによる政権掌握以来およそ80年ぶりとなる。

世論調査では何カ月も前から自由党が他党をリードしていたが、カール・ネーハマー現首相が率いる保守派のオーストリア国民党との差はわずかだった。自由党は第1党となっても国を率いるには連立政権を組む必要があり、それが可能かどうかは不透明な状況だ。

自由党のヘルベルト・キクル党首は自らを「Volkskanzler(国民の宰相)」と称してきた。ナチスがアドルフ・ヒトラーに使ったのと同じ言葉だ。自由党の初代党首(1956~58年)を務めたアントン・ラインタラーは元ナチス党員。ナチス政権で農務相を務め、ナチス親衛隊(SS)に所属した経験もある。

ドイツの公共放送ドイチェ・ウェレ(DW)の報道によれば、自由党のミヒャエル・シュネルドリツ幹事長は自由党が第1党になるという暫定結果を受けて「有権者が声を上げた。この国は変革を求めている」と述べた。

AP通信によれば、オーストリアの公共放送ORFは今回の総選挙の結果について、90%の票を集計した段階で自由党の得票率が約28.9%、オーストリア国民党の得票率が約26.3%になる見通しだと報じた。中道左派の社会民主党がそれに次ぐ21%の票を獲得する見通しだ。

連立協議は難航必至

ネーハマーは9月29日に投票所が閉鎖された後、X(旧ツイッター)への投稿で「われわれは共に戦った!この国の安定と政治的中道のために。オーストリア国民党は多くの人が考えていたよりも健闘した。もちろん選挙が終わった後も、われわれは有権者に約束したことを守っていくつもりだ」と述べた。

本誌は29日に自由党およびネーハマーの広報担当者にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。

米シンクタンク「ジオポリティカル・フューチャーズ」の上級アナリストであるアントニア・コリバサヌは本誌宛てのメールで、「議会で第1党になったからといって、自由党が政府に参加できる訳ではない」と述べた。「自由党との連立について慎重ながらも検討の可能性を示唆しているのは、オーストリア国民党だけだ」

最終的に自由党が政府を率いることはないかもしれないが、自由党人気の高まりは既にオーストリアの政治、とりわけ移民や欧州連合(EU)に対する意見、ロシアとウクライナの戦争などの問題に影響を及ぼしている。

コリバサヌは「オーストリア国民党は自由党とは異なり親EUで、ロシアに対するEUの姿勢を支持している」ものの、自由党への支持の高まりがオーストリア国民党による「より厳格な移民対策の導入と、シェンゲン協定地域をルーマニアやブルガリアにまで拡大する案への反対を決定づけた」と説明した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

植田総裁、21日から米国出張 ジャクソンホール会議

ビジネス

中国のPEセカンダリー取引、好調続く見通し 上期は

ワールド

マスク氏が第3政党計画にブレーキと報道、当人は否定

ワールド

訪日外国人、4.4%増の340万人 7月として過去
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 10
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中