最新記事
イラン

イランがイスラエルに報復できる手段は限られているが「何もしないという意味ではない」

Iran Faced With 'Bad Choices' After Israel Wipes Out Hezbollah, Hamas Chiefs

2024年9月30日(月)17時24分
ブレンダン・コール
ナスララ師の肖像

イスラエルの空爆で殺されたヒズボラの指導者ナスララ師の肖像を掲げてその死を悼むベイルート市民(9月29日) REUTERS/Thaier al-Sudani

<ハマスやヒズボラ、フーシ派などの代理勢力を攻撃し、その指導者を数多く殺害したイスラエルに対し、元締めのイランは「報復」を誓う>

レバノンのイスラム教過激派勢力ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララを殺害したとイスラエルが発表したとき、イランの最高指導者アリ・ハメネイは、イランとその代理勢力はヒズボラ側に立つと述べた。 だが専門家に言わせれば、イランがイスラエルに報復できる手段は限られているという。

イスラエル国防軍(IDF)は9月28日、ハマスのシリア支部の幹部、アフメド・ムハンマド・ファハドを空爆で殺害したと発表した。 その後、ヒズボラの拠点となっているベイルート南郊のダヒエ地区に対する27日の空爆で、ナスララを「排除」したことも伝えた。

ヒズボラもナスララの死を確認した。彼はめったに公の場に姿を現さないカリスマ的指導者で、中東全域にイランの力を誇示する武装組織のネットワーク「抵抗の枢軸(ヒズボラ、ガザのハマス、イエメンのフーシ派、その他)」の重要人物だった。

パレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスが2023年10月7日にイスラエルに奇襲攻撃を仕掛け、ガザでの戦争を引き起こした後、ナスララはハマスと連帯してイスラエル北部への持続的なロケット攻撃を行い、6万人のイスラエル市民が避難を強いられた。

イランの最高指導者ハメネイは、ナスララの死後初の声明で、あえてナスララの名前には触れず、「この地域のすべての抵抗勢力はヒズボラを支持し、ヒズボラとともに立ち上がる」と述べた。

弱い報復は効果なし

イスラム革命防衛隊(IRGC)のアッバス・ニルフォロウシャン准将もイスラエル軍のベイルートへの攻撃で死亡した、とイランのメディアは報じている。ハメネイはイラン国内の安全な場所に移された、とイラン当局者はロイター通信に語っている。

ベルリンのシンクタンク、ドイツ国際安全保障問題研究所のハミドレザ・アジジ研究員は、今年7月にイランの首都テヘランで殺害されたハマスの指導者イスマイル・ハニヤの復讐を誓った後、イランにとって次の動きは難しいものになっている、と述べた。

「イランは、戦争に突入することなく、イスラエルがイランの利益を損なうのを阻止するために断固たる対応を示すというやり方を考えていたが、ヒズボラに起こったことを考えると、それはもう通用しないようだ」

イランは4月にイスラエルがシリアの首都ダマスカスにあるイラン領事館を空爆したときも復讐を誓い、イスラエルにミサイル攻撃や無人機攻撃を行ったが、その程度では抑止力にはならなかった、とアジジは付け加えた。

「それ以上の動きは戦争の引き金になりかねないということがイランにとってのジレンマとなっている。それがハニヤ暗殺に対する報復で何もできなかった理由であり、そもそもイスラエルに対する抑止の確立は遅きに失したようだ」

「これは、イランが何もしないかもしれないという意味ではない。現時点ではどんな動きも、以前よりもエスカレートする危険性があるという意味だ」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を

ビジネス

中国の安踏体育と李寧、プーマ買収検討 合意困難か=

ビジネス

ユーロ圏10月銀行融資、企業向けは伸び横ばい 家計

ビジネス

成長型経済へ、26年度は物価上昇を適切に反映した予
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中