最新記事
東南アジア

【新展開】町長が実は中国人だった?...フィリピンを揺るがす「中国スパイ」疑惑の真相は

The Guo Case

2024年8月27日(火)16時07分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)
フェルディナンド・マルコスJr.大統領

Juergen Nowak-shutterstock

<人身売買の被害者800人以上が救出された強制捜査をきっかけに、アリス・グオ町長と中国系オンラインカジノの不正疑惑が浮上。グオの出自や中国の浸透工作への疑念が広がる中、グオがフィリピンを出国したとわかり──>

「関係者は厳正に処分する」。フィリピンのフェルディナンド・マルコスJr.大統領が、そんな厳しい声明を自らのフェイスブックで発表したのは8月21日。関係者とは、かねてから不正がささやかれていた政治家の国外逃亡を許した政府内の誰か、だ。

渦中の人物は、首都マニラから車で1時間半ほど北にある小さな町バンバンのアリス・グオ町長だ。グオは、バンバンにある中国系オンラインカジノ(POGO)との不正な関係を疑われて、捜査当局、さらには上院の調べを受けている最中だった。


このPOGOが中国の犯罪組織と関係があるとされるほか、グオが実は中国人なのに国籍をごまかしていた疑惑が浮上したことなどから、事件は全国的な注目を集める大スキャンダルに発展していた。

そして今回、グオがひそかにフィリピンから出国していたことが明らかになった。

マルコスの大統領府組織犯罪取締委員会(PAOCC)の発表によると、グオは7月18日にはインドネシア経由でマレーシアに出国。同21日にはシンガポールに移動し、8月18日にシンガポール沖のバタム島(インドネシア領)にたどり着いたとされる。

マルコスは、グオの出国が「わが国の司法制度を傷つけ、国民の信頼を損なう汚職を露呈した」と糾弾。出国を許可した人物を必ず「暴く」と息巻いた。

また、「捜査は既に始まっており、責任者は解任され、法的に認められる最大限の処罰を受けるだろう」と念を押した。「関係者は厳正に処分することを断言する」。さらに大統領府は、グオのパスポートを失効させるよう法務省と外務省に要請した。

町長は中国人だった?

そもそもグオに疑惑が浮上したのは今年2月。違法な事業活動を疑われて強制捜査を受けたバンバンの2つのPOGOが、グオの関係企業が所有する不動産で営業していたのだ。

強制捜査は3月にも行われ、ネット詐欺や人身売買の容疑で9人が逮捕され、詐欺の実行を強要されていたとみられる人身売買の被害者800人以上が救出された。

フィリピン上院も5月に調査に乗り出し、その過程で、グオの出自が詳細に調べられた。その結果、グオが実はフィリピン人ではなく、中国で生まれたグオ・ホアピンという中国人であるとの報告書が提出された。

この調査結果が、POGOは中国による浸透工作の隠れみのなのではないかという、かねてからささやかれてきた疑念に火を付けた。POGOは外国人向けオンラインカジノで、ドゥテルテ前政権下(2016〜22年)で急増していた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中