最新記事
南シナ海

8人負傷のフィリピン兵、1人が「親指失う」けが...南シナ海で暴走の中国、米軍の抑止力を恐れず

Inching Closer to Combat

2024年6月24日(月)16時00分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)
南シナ海でフィリピン軍のボートに乗り込む中国海警局

中国海警局はナイフやおのを手にフィリピン軍のボートに乗り込んだ ARMED FORCES OF THE PHILIPPINESーAP/AFLO

<フィリピンEEZ内で中国海警局の艦船がフィリピン軍補給船の航行を妨害。ナイフや斧を手にした海警局職員がフィリピン軍のゴムボートに乗り込んだ>

南シナ海における中国の「無謀な」行為がまたもや各国の非難を浴びている。

事件が起きたのは6月17日。スプラトリー(南沙)諸島のセカンド・トーマス礁へ補給に向かうフィリピン軍の艦船の航行を、中国船が阻止したのだ。中国海警局の艦船はフィリピンの補給船に衝突。その後の小競り合いでフィリピン海軍の兵員8人が重軽傷を負った。

フィリピンは自国の排他的経済水域(EEZ)内にあるセカンド・トーマス礁を守るため、老朽化した揚陸艦シエラ・マドレをこのサンゴ礁に意図的に座礁させて、海軍の小部隊を常駐させている。

ニュースサイト「パラワン・ニュース」が18日に報じた匿名の情報筋の話によると、中国側は補給に向かう「全ての船を標的にし、硬質素材のゴムボートに穴を開けて航行不能にした」という。

報道によれば、中国海警局の職員は刃物を手にゴムボートに乗り込みフィリピン軍の銃器を押収。それに伴う乱闘で、フィリピン海軍の兵士1人が片手の親指を失い、ほかにも7人が軽傷を負ったもようだ。

この1年余り、中国はセカンド・トーマス礁に向かうフィリピンの補給船に妨害行為を繰り返してきた。嫌がらせは徐々にエスカレートし、海警局の船がフィリピンの沿岸警備隊の船に激突したり、補給船に強力な放水砲を浴びせたりするようになった。

フィリピン軍の補給船団が人的被害を受けたのは今年に入って3度目。3月5日と23日には、中国海警局の船が放水砲を発射し、フィリピン船の複数の乗組員が負傷した。

米軍の抑止力も無視

とはいえ、切った張ったの乱闘騒ぎは今回が初めてだ。

フィリピンは南シナ海における中国の現状変更の試みを阻止するため、この海域の透明性を重視する方針を掲げ、国際法を無視した中国の活動を世界に知らせてきた。だが中国は国際社会の非難を物ともせず、米軍の介入を招く一歩手前まで挑発行為をエスカレートさせている。

アメリカとフィリピンは1951年に「相互防衛条約」(MDT)を締結。米政府高官は南シナ海でフィリピン軍が攻撃されたら、この条約に基づき直ちに支援に向かうと何度も保証してきた。

米軍介入の可能性は抑止力として働くはずだが、実際はそうなっていないようだ。今回の騒ぎを受けてオーストラリア戦略政策研究所のユーアン・グレアムは「MDT発動すれすれの事態に衝撃を受けた」とX(旧ツイッター)に投稿した。「抑止力はちっとも効いていない」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米政策金利、FFよりレポ翌日物が妥当 ダラス連銀論

ワールド

トランプ氏は「酒依存症のような性格」、米誌インタビ

ビジネス

家計の金融資産、9月末は2286兆円で最高更新 株

ワールド

タイ政府、カンボジアに足止めの自国民の帰国手配 最
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中