最新記事
南シナ海

<南シナ海>中国の違法な軍事拠点を守る世界最大の武装巡視船「南沙」

US Ally Meets China's 'Monster Ship' Guarding Artificial Islands

2024年8月23日(金)17時42分
ライアン・チャン
中国が軍事拠点化している南シナ海スプラトリー諸島ティトゥ島

中国が軍事拠点化している南シナ海スプラトリー諸島ティトゥ島。滑走路が見える(2023年) REUTERS/Eloisa Lopez

<「自由で開かれたインド太平洋」を守るため多国籍の軍が艦船を派遣する南シナ海で、中国の権益を力で守るために「南沙」と名付けられた「モンスター」>

カナダ海軍の艦船が、南シナ海に中国が造成した人工島付近をパトロール中、世界最大の巡視船である中国海警局の「モンスター船」に出くわした。

【画像】威嚇と排除目的で作られた中国海警5901「南沙」

米海軍協会発行のUSNIニュースが南シナ海の係争海域で8月19日に起きた出来事として伝えた。それによれば、カナダ海軍のフリゲート艦──ミサイルで武装した満載排水量4770トンのHMCSモントリオールはこの海域を航海中、中国が軍事転用を図るスプラトリー(南沙)諸島のスービ礁、ファイアリークロス礁、ミスチーフ礁付近を意図的に通過した。

中国はこれらの岩礁を埋め立てて実効支配し、ここ何年かの間にさまざまな施設を建設してきた。センサー/通信施設、限定的な範囲を守る対空兵器、滑走路、戦闘機用の格納スペース、地下/埋設型倉庫......。軍事施設に埋め尽くされた岩礁は、今や海上の前哨基地と化している。

排水量1万2000トンという桁外れの大きさからメディアや専門家に「モンスター船」と呼ばれる中国海警局の巡視船「海警5901」は、ミスチーフ礁近くでモントリオールに接近した。カナダ海軍の指揮官によれば、双方が海上警備のプロフェッショナルとして冷静な対応を取り、トラブルを回避できたという。

「モンスター船」の正式な船名は、スプラトリー諸島の中国名にちなむ「南沙」。中国は東シナ海と南シナ海で日本やフィリピンなど周辺国の巡視船を蹴散らし、自国の権益を守るために、この威圧的な大型船を建造した。

フィリピン船には何度も接近

巡視船・南沙は全長165メートル、速度25ノット。速射砲、補助砲、対空機関砲を搭載している。耐久性、衝突耐性、耐航性、速度で、他国の巡視船に勝ると、専門家は言う。

米沿岸警備隊の大型巡視船・国家保安カッターでさえ、南沙と比べると小さく見える。アメリカの大型カッターは排水量4700トン、全長約127メートル。違法船舶の沿岸域への接近を阻止する自律型兵器システムを搭載しているだけだ。

中国はいわゆる「九段線」を根拠として、南シナ海における自国の海洋権益を主張してきた。だが、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が2016年に下した判決で、九段線は中国が恣意的に引いた破線にすぎないことがはっきりした。それでも中国は自国の管轄権を既成事実化するため、人工島の造成と軍事施設の建設を急ピッチで進め、それらの建造物を守るために南沙を就役させた。

フィリピン沿岸警備隊はこれまでに何度も南シナ海で南沙とあわやのニアミスを経験している。今年6月下旬には、カナダ政府が違法漁業の取り締まりのために開発した人工衛星による監視システムを利用して南沙の動きを10日間追跡したという。

中国海警局はこれについて一切情報を公開していない。本誌は中国外務省と国防省にメールで問い合わせたが、今のところ返信はない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中