最新記事
紛争

ヒズボラの戦闘員「約10万人」とイスラエルが全面開戦したらどうなる?

DOES ISRAEL HAVE AN ENDGAME?

2024年8月22日(木)15時10分
ダニエル・バイマン(ジョージタウン大学教授)

出口戦略を描けない戦い

イスラエルは、レバノンの紛争で侵略者と見なされれば、国際社会からもアメリカからもさらに批判を浴びることになる。既にガザの戦争をめぐってイスラエルに対する世界の評価は低く、特にアメリカの若い世代は多くの人が批判的だ。

サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)では、政権はヒズボラとその後ろ盾のイランを嫌悪している。

だが戦争の壊滅的な被害とレバノンの一般市民の苦しみを目の当たりにすれば、世論はイスラエルへの嫌悪を募らせ、反ヒズボラの軍事作戦を支援できなくなるだろう。


おそらく最も重要なのは、ガザと同じように、レバノンの統治問題を解決するすべがないことかもしれない。

ヒズボラと同程度の力を持つライバルは存在せず、ヒズボラが軍事的に敗北したり別の勢力に抑圧されたりしても、ヒズボラそのものが消滅することはなさそうだ。

そう考えると、抑止力を維持するアプローチがより効果的だろう。

ヒズボラも、ガザの停戦が実現すれば攻撃をやめると示唆している。バイデン米政権のエネルギー担当特使アモス・ホックスティーンは、レバノンに利益をもたらしつつ、イスラエルの安全保障上の立場を強化するような取引の仲介を模索中だ。

ヒズボラは長年、イスラエルの軍事力に適切な敬意を抱いており、ガザの惨劇は、イスラエルが本気なのだと改めて実感させられている。

また、ヒズボラの指導者たちは、ハマスがガザのことを気にかけているより、はるかに真剣にレバノンのことを考えている。レバノン経済は19年以降、破綻しており、新たな戦争は国を完全に崩壊させかねず、そうなればヒズボラが責任を問われる。

このようなアプローチは、根本的に満足のいくものではない。

和平交渉が理想的に進めばヒズボラの戦闘員はイスラエル国境から遠ざかるだろうが、ヒズボラはイスラエルにとって脅威であり続ける。とはいえ、満足できない抑止力でも、満足できない結末を迎える壊滅的な戦争よりはましだ。

ただし、イスラエルの国家安全保障上の意思決定は非常に政治的で、短期的な計算に支配されている。実際、ガザでの戦闘が始まってから10カ月以上になるが、いまだに現実的な出口戦略を描けていない。

こうした短期的な視野は、先制攻撃を行ってから長期的な目標を考えようということになりかねない。

イスラエルの指導部に対し、費用がかさんで逆効果になるだけの戦争を回避する政治的な大義名分を与えるためにも、全面戦争を回避するようにアメリカと同盟国が圧力をかけ続けることが不可欠だ。

Foreign Policy logo From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中