最新記事
バングラデシュ

民主主義と原理主義、岐路に立つバングラデシュ

India Needs Yunus to Stay

2024年8月21日(水)13時03分
ジャンナトゥル・ナイム・ピアル(ジャーナリスト)

newsweekjp_20240821023832.jpg

前首相の辞任・国外逃亡の後、挙国一致的支持を受けて最高顧問に就任したユヌス MOHAMMAD PONIR HOSSAINーREUTERS

狙いは反インド化阻止

つまり、バングラデシュの新指導者が中国やアメリカ、パキスタンとの関係強化を望む勢力と足並みをそろえた場合、インドにとって準備不足の難問が生じることになる。

今やインドは明らかに、バングラデシュで影響力を維持する手法を再考している。目指しているのは、自国の存在感を主張しつつ、行きすぎという印象を回避する在り方だ。


モディのユヌスへの「祝福」は、正しい方向への前向きな一歩になるかもしれない。

世界的に評価の高いユヌスは、現時点では国内でも圧倒的な人気を誇る。クオータ制度改革運動側が暫定政権最高顧問に選んだだけでなく、主な野党の民族主義党(BNP)やイスラム主義政党のイスラム協会(JI)が一致してユヌスを支持する。

だが、問題がある。BNPやJIがバングラデシュの政権を握る事態を、インドが望んでいないのは周知の事実だ。両党は伝統的に反インドの立場で、インドの戦略的競合相手である中国やパキスタンとの関係強化を求めている。

BNPやJIの台頭は、インドが世俗派のハシナ政権と築き上げてきた貿易・安全保障・地域的連結性をめぐる協力関係の終わりを意味しかねない。近年のバングラデシュ政府の特徴だった親インド政策からの転換が起これば、地域安定性や安全保障分野でのインドのより広範な戦略的利益も危うくなるかもしれない。

バングラデシュ国内では既に、BNPとJIの潜在的影響力が目に見える。ハシナ失脚後、活動家や両党の幹部らは政敵に対する報復行為に乗り出し、ヒンドゥー教徒をはじめ、国内少数派の住宅や宗教施設を標的にした放火、破壊や略奪も起きている。

「ユヌス政権」持続なら

BNPかJIが与党になったら、バングラデシュは過激な原理主義国家に変貌し、テロが増加する恐れがある──バングラデシュ情勢へのインドメディアの注目度を見れば、そうした考えがインド国民の総意であることは明白だ。

だからこそ、2党の政権掌握を阻止することがインドにとって重要だと考える向きは多い。ならば、ユヌスを支持するのは、その上で最も効果的な方策かもしれない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア凍結資産活用、ベルギーがEUに「リスク分担」

ワールド

台湾国防部長、双十節後の中国軍事演習に警戒

ワールド

台湾、ロシアエネルギー制裁強化に協力表明 NGOの

ビジネス

当面は米経済など点検、見通し実現していけば利上げ=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 9
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中