最新記事
BOOKS

世界初のプロフェッショナル・プログラマーは女性だった...コンピューター開発史に埋もれた先駆者たちを描いて

2024年7月31日(水)18時55分
羽田昭裕(BIPROGY株式会社エグゼクティブフェロー、多摩大学客員教授)
ベティ・スナイダー・ホルバートン、ジーン・ジェニングス・バーティク、マーリン・ウェスコフ・メルツァー、ルース・リクターマン・タイテルバウム

世界初の現代的コンピューターENIAC前に立つ、世界初の職業的プログラマーだった女性たち。(左から)ベティ・スナイダー・ホルバートン、ジーン・ジェニングス・バーティク、マーリン・ウェスコフ・メルツァー、ルース・リクターマン・タイテルバウム(1946年) Courtesy of the Bartik Family and First Byte Productions, LLC.

<トランプ銃撃の舞台であり、数々の変革の中心地となってきた米ペンシルベニアは、世界初のコンピューター誕生の地。多大な功績を残しながら忘れられた6人の女性に今注目すべき理由は>

米ペンシルベニア州バトラーで開かれていた選挙集会でドナルド・トランプ前大統領が銃撃されたことを契機に、トランプ支持の高まり、ジョー・バイデン大統領の撤退表明、カマラ・ハリス副大統領が新たな大統領候補へ、と米大統領選をめぐる動きは急激な展開を見せている。

米史上に残る事件を生んだペンシルベニア州は、バイデンの出身地でもあり、大統領選本選の結果を左右する注目の激戦州としても知られる。

アメリカでも最も歴史ある州の1つであるペンシルベニアは、プロテスタントの一派であるクエーカー教徒が集中する土地であるという特殊性のためか、奴隷解放やフェミニズム運動、反戦運動、近年ではコロナワクチン開発に至るまで、不思議とこれまでもアメリカと世界にイノベーションを引き起こす中心地となることが多かった。

そのペンシルベニアが、実は世界初のコンピューター誕生の地であったことをご存知だろうか。

1940年代のコンピューター開発における知られざる側面に光を当てたのが、キャシー・クレイマンの新著『コンピューター誕生の歴史に隠れた6人の女性プログラマー――彼女たちは当時なにを思い、どんな未来を想像したのか――』(邦訳、共立出版)である。

インターネット政策と知的財産の専門家であるクレイマンが掘り起こしたのは意外な事実――最初の職業的プログラマーが6人の女性であり、彼女たちがオペレーティングシステムもプログラミング言語もない環境で数値解析を学び、機械の設計者と利用者である数学者・物理学者との橋渡しを行い、チームワークと洞察力で道を切り開いていったことだ。

巨大コンピューターの前に立つ女性の白黒写真

彼女たちの物語を伝える試みに、私は訳者として参加した。フィラデルフィア近郊で研鑽したプログラマーとして先駆者にオマージュを捧げたいと考え、日米両国を大きく変えた戦争の歴史と重なるコンピューティングの歴史を日本の若い女性や男性やその家族に伝えたいというクレイマンの狙いに、強く共感したからでもある。

初期のコンピューター業界で活躍した人々について調べていたクレイマンは、世界初のコンピューター「ENIAC(エニアック)」(金属で覆われた高さ2メートル半の巨大な物体だった)の前に立つ女性の古い白黒写真を偶然目にする。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

自民と維新、連立政権樹立で正式合意 あす「高市首相

ワールド

プーチン氏のハンガリー訪問、好ましくない=EU外相

ビジネス

訂正-アングル:総強気の日本株、個人もトレンドフォ

ビジネス

アングル:グローバル企業、中国事業の先行き悲観 国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 7
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中