最新記事
中東

イランの新大統領就任「羊の皮を被った狼か、救世主か」今後を占う3つの要素

An Unknown Quantity

2024年7月24日(水)15時16分
アリ・バエズ(国際危機グループ・イランプロジェクト部長)

イランの戦略的決定が、選挙など表向きのシステムとは切り離された一握りの有力者により下されていることや、国外の不安定要因が多いことを考えても、イランの意思決定プロセスに、ペゼシュキアンのような自制的な声が増えるのは、総じて良いことだ。

米政治の先行きの不透明性と中東の混乱を考えると、アメリカとイランが近い将来に新たな合意に到達できる余地はあまりない。だが、両国は昨年に非公式の合意に達しており、少なくともその再建に努めるべきだ。


この合意とは、イランが、外国にある凍結資産の一部解除と引き換えに核開発をストップし、イラクとシリアにいる米軍への攻撃を控え、ロシアのウクライナ戦争支援を一部制限するというものだ。

これが実現すれば、バイデンはペゼシュキアンの大統領就任に合わせて、制裁に一定の猶予を与えやすくなる。

ただ、これは応急措置にすぎない。

核合意の再建は、本来の合意がまとめられた15年よりも考えにくくなっている。トランプが核合意から一方的に離脱を宣言して以来、かつてわずかに存在した信頼は失われ、イランは核開発を大幅に進展させてきた。

何らかの交渉をしても、再びトランプ政権が誕生して、約束を破棄するのではないかというイランの(もっともな)懸念、そしてイランを悪者と見なすアメリカの政界全般の空気を考えると、米大統領選前にバイデン政権とペゼシュキアン政権が、核問題などで持続可能な外交的解決策を模索するとは思えない。

ということは、この作業に当たるのは、当面、ヨーロッパ諸国になりそうだ。

本格的な話し合いの最初のチャンスは、9月に国連総会に出席するために、各国首脳がニューヨークに集まるときになるだろう。アメリカもこのとき今後のイランとの関係の基礎を築くことができれば、11月の大統領選後に両国関係を加速できるかもしれない。

このような基礎づくりは、たとえトランプが2期目を担うことになったとしても、1つの選択肢を提供するだろう。

イランとの間で互恵的な取り決めを探るか、それとも危険な対立を招き、アメリカを再び中東で泥沼にはまり込ませるリスクを冒すか、だ。

ペゼシュキアンが体現する約束は、実現するか、失敗するかのどちらかだ。

実際に彼が大統領に就任し国内外の無数の課題に直面したとき、欧米諸国が経済制裁を限定的に解除することにより、イランの国内政策と外交政策を変えるという新大統領の提案にチャンスを与えるのは、悪いアイデアではないはずだ。

Foreign Policy logo From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 豪ワーホリ残酷物語
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月9日号(9月2日発売)は「豪ワーホリ残酷物語」特集。円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代――オーストラリアで搾取される若者のリアル

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国が軍事パレードで新兵器披露、抑止力のメッセージ

ワールド

ロシアがウクライナに大規模空爆、鉄道員ら負傷・重要

ワールド

仏政権崩壊なら赤字削減で妥協不可避=財務相

ワールド

ロ朝首脳会談始まる、北朝鮮のロシア派兵にプーチン大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 10
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中