最新記事
中東情勢

イランのライシ大統領墜落死で革命と神権政治の仮面をかぶった「暴力国家」に加わるさらなる嘘

EVEN WORSE

2024年5月31日(金)17時21分
グレン・カール(本誌コラムニスト、元CIA工作員)
イラン大統領墜落死と新たな戦争の影

墜落現場の捜索。事故に不審点はないとみられる(5月20日) AZIN HAGHIGHIーMOJ NEWS AGENCYーANADOLU/GETTY IMAGES

<ヘリコプターとともにイランは神権主義の軍事国家へと転落する...事故死したライシ大統領の後継者が誰であろうと、国内政策のさらなる保守化と中東の不安定化は避けられない>

5月19日、イランのイブラヒム・ライシ大統領とホセイン・アミール・アブドラヒアン外相ら8人を乗せたヘリコプターがアゼルバイジャン国境に近い山岳地帯で墜落し、全員が死亡した。

この事故により、イランがさらに窮地に陥り、そして中東がもっと危険になるのは間違いない。次の政権はイラン社会にイスラム法の厳格な解釈を課し続ける可能性も高い。

「イスラエルに死を」「アメリカに死を」路線は継続され、代理組織を通じて地域的影響力を高めようとするだろう。そして、今度こそ核兵器開発に踏み込んでいくだろうとみられる。

なぜか。次世代の指導層は、ライシのように若い頃にイスラム革命を経験した世代以上に強硬だからだ。

次期大統領が誰になるにせよ、その人物が嫌われ者の強硬派だったライシ以上に攻撃的で厳格であることはほぼ確実だ。その上、陰の権力者であるイラン革命防衛隊は権力を一段と強化し、遠くない将来、公然とトップに立ってイランを暴力で直接支配するかもしれない。

ライシの死に犯罪の兆候はなかった。つまり、イランは自国の大統領を乗せるヘリさえまともに飛ばせなかったわけだが、それも意外ではない。

アメリカの制裁により、1960年代に開発されたアメリカ製の航空機やヘリを維持管理するのは困難になっていた。しかも、その任務を担う軍や治安当局は腐敗まみれだ。

newsweekjp_20240529023825.jpg

事故直前にアゼルバイジャンを訪問していたライシ(5月19日、写真提供はイラン大統領府) OFFICE OF THE PRESIDENT OF THE ISLAMIC REPUBLIC OF IRAN/GETTY IMAGES

今回の墜落事故は政治的に微妙なタイミングに起きた。イスラム革命を率いたルホラ・ホメイニ師が89年に死去した後、最高指導者の座に就いたアリ・ハメネイ師は既に85歳だ。

ライシは地味で創造性に欠ける人物だったが、ハメネイ体制の忠実な執行役だった。最近では2022年にヒジャブの着用をめぐり道徳警察に拘束されたクルド系女性が不審死を遂げ、大規模デモが起きた後に、着用徹底を図る法整備を無慈悲に進めた。

ヒジャブの不着用がイスラム共和国の終焉につながることを恐れ、数百人のデモ参加者が死亡しても見て見ぬふりをしたのである。

後継者選びは難航する

ハメネイはライシを後継者にする準備を進めていたようだが、彼が事故死した今、どうなるだろうか。

政権指導部は硬直化しており、めぼしい後継者は見当たらない。ハメネイの息子モジュタバ・ハメネイはそれなりの知名度があり、政権の保守的な神権主義を支持しているという意味で大統領になる資格はある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハリケーン「メリッサ」、勢力衰えバハマ諸島を北東へ

ワールド

ブラジル、COP30は安全と強調 警察と犯罪組織衝

ワールド

米中首脳会談後の発表、米国農家の「大きな勝利に」 

ビジネス

韓国サムスン電子、第3四半期は32%営業増益 従来
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 4
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中