最新記事
アメリカ

ロサンゼルスのギャング抗争は、警察側も非道なプロファイリング、銃撃・投獄を行っていた

2024年7月4日(木)18時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ストリートからネットへ...進化し続けるギャング犯罪

ギャング犯罪も進化を続けている。もともとはストリートで生まれたものであるのに、一部の活動は警察が目を光らせているインターネットを利用して、自宅などのプライベートな空間から行っているギャングが数多く存在する。

それでも、昔ながらの縄張り争いがなくなったわけではない。ソーシャルメディアでの対立や、ダークネット上の薬物販売をめぐる争いがあれば、たちまち街路での戦いが発生する可能性が高い。

それに対して、ロサンゼルス市警は20年前に地理情報システム(GIS)を導入し、犯罪活動を効率的に地図化し、警官が最も必要とされる場所を特定できるようになった。ストリート・ギャングの縄張りの境界を固定したものと見なすインジャンクションの地図とは違い、現在の地図を使えば、警察はリアルタイムに犯罪行為に対応できる。

たいていの場合、警察は危険が増大する前にギャングの行動を予測できる。だがそのためには、ギャングの流動的な生活様式の最新情報を常に把握していなければならない。

おそらく、仲間と縁を切って新しい生活を切り開こうとする人ほど、ギャングのメンバーを見分け、ギャング活動以外の人生を追求することの難しさを身にしみて感じているだろう。単にギャングから足抜けすればすむ問題ではないからだ。

静かに生きるつもりだったストリート・ギャングの元メンバーが、敵対するグループに所属していたというだけの理由で、襲撃され、殺害されるケースも少なくない。足を洗っても警察につきまとわれ、逮捕される元メンバーがあとを絶たない。犯罪歴という汚名によって、雇用機会を大幅に制限される可能性もある。

したがって、ストリート・ギャングの元メンバーの地域とのかかわりは、暴力で境界を定められ、抗争が繰り返される街で過ごした時間によって決められてしまう傾向がある。

チャンスさえあれば、メンバーの多くはギャングをやめ、二度と戻らないだろう。だがその代わりに、新しいメンバーが暴力で自分たちのグループの縄張りを維持するために組織化され、警察当局はその変化に追いつくことを強いられる。

これらの境界線は公式の地図には載らないはずだが、地元住民には市内のほかの境界よりも大きな影響力を持っている。境界を特定して視覚化できるかどうかが、生き死にを左右するとは言わないまでも、争いの絶えない場所で人間の行動に影響を与える可能性は大いにあるのだ。


『世界は「見えない境界線」でできている』
世界は「見えない境界線」でできている
 マキシム・サムソン 著
 染田屋 茂、杉田 真 訳
 かんき出版

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


ニューズウィーク日本版 台湾有事 そのとき世界は、日本は
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月26日号(8月19日発売)は「台湾有事 そのとき世界は、日本は」特集。中国の圧力とアメリカの「変心」に強まる台湾の危機感。東アジア最大のリスクを考える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日ぶり反落 最高値更新後に利益確定 方

ビジネス

アングル:米中の関税停止延長、Xマス商戦の仕入れ間

ビジネス

訂正-午後3時のドルは147円後半でもみ合い、ボラ

ビジネス

ソフトバンクG、不振のインテルに20億ドル出資 米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 9
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 10
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中