最新記事
BOOKS

「死刑囚だけど、会いたいから行ってるだけ」和歌山カレー事件・長男の本音

2024年6月28日(金)17時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
女性の死刑囚

写真はイメージです nimito-shutterstock

<もしも母親が死刑囚だったら家族の関係はどうなるだろうか。そんな壮絶な環境を生きている林眞須美の長男が語った>

1998年に日本中を騒がせた和歌山カレー事件。地元の主婦、林眞須美が逮捕され、2009年に最高裁で死刑判決が下ったが、実は冤罪の可能性が指摘されている。

林眞須美死刑囚の長男は、今も和歌山に暮らし、そして時おり、メディアで発信をしている。2019年7月には『もう逃げない。 ~いままで黙っていた「家族」のこと~』(ビジネス社)を出版。その書評をニューズウィーク日本版で書いたことから縁が生まれ、長男と交流を始めることになったのが、書評家の印南敦史氏だ。

印南氏の新刊『抗う練習』(フォレスト出版)は、自身の半生を綴りながらまとめられたユニークな自己啓発書だが、そこには印南氏と長男(本書では「林くん」と表記)の4時間58分に及ぶロング対談も収録されている。ある意味で「抗う人」の代表格というわけで、印南氏は2回、和歌山まで取材に赴いた。
『抗う練習』
対談で明かされるのは、長男はその母である林眞須美死刑囚との、もしかしたら常人には想像しがたいかもしれない関係性だ。そのほんの一部だが、ここに抜粋する。

※抜粋記事第1回:「コメント見なきゃいいんですよ、林さん」和歌山カレー事件・林眞須美死刑囚の長男の苦悩

◇ ◇ ◇

僕はもう好きになっちゃってるので

日がさらに暮れかけてきたころ、話は家族について、さらに深いところまで進んでいきました。そしてこのとき、僕は林くんの口から、純粋に素敵だなと感じることばを聞くことになりました。

印南 いずれにせよ、親子、家族の関係ってそう簡単に崩れるものじゃないのかもしれないね。

 もちろんギクシャクすることもありますし、距離はあるけれども、会いに行ったら行ったで盛り上がるし、面会室で。「あのとき、ああだったよね」というような話になるわけですけど、親子って、家族ってそういうもんじゃないですか。いくら過去に法を犯したからといっても、僕はもう(親のことを)好きになっちゃってるので、嫌いになれって言われてもなれないんですよ。この場についても同じことが言えて、いま同じ空間でこれだけ話が盛り上がってるんだから、その人が次の日に法を犯したとしても「じゃあ嫌いになろう」ということにはならないんですよ。なれないですよ。人間だから。

印南 そうだよね。

 気を使わなくていいのが家族なんですよ。失礼もしていいし、おならもこけるし、ゲップもできるっていう。これが家族じゃないですか。下品ですけどね。こたつで寝てるのを「風邪ひくよ」って怒ってくれるのも家族なんですよ。

印南 それは家族の本質かもしれないね。

 誰だって同じというか、たぶん僕と同じ行動をするんじゃないかなと思うんです。だって、切れます? 「法を犯した。もう明日から犯罪者だから俺に関わるな」って、そんなことができる親がいるかっていう。寄り添うんですよ、誰だって。守ろうとするし。世間からなにを言われても、親として責任を取ろうとするじゃないですか、親として。そこをやっぱ一生懸命叩かれてもねというところではある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイCPI、2カ月連続マイナス 通年見通し下方修正

ワールド

インド中銀が予想外の大幅利下げ、景気支援へ 預金準

ビジネス

オアシス、トヨタ・豊田織機の株保有 買付価格引き上

ビジネス

ドイツ輸出・鉱工業生産、4月は予想以上に減 米国か
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 9
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 10
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中