イランの核武装への兆候か? イスラエルとの初交戦と大統領墜落死が示すもの

IRAN EXAMINES THE NUCLEAR OPTION

2024年6月27日(木)12時40分
トム・オコナー(外交・中東担当)

newsweekjp_20240626030958.jpg

核燃料の搬入を開始したイラン南部のブシェール原子力発電所(2010年8月)。イランは「平和利用」を強調していた IIPA/GETTY IMAGES

4月の「報復合戦」が契機に

それでも国連安全保障理事会は2006年、イランの核開発をめぐる初の規制決議案を採択した。アメリカはその10年前、既にイランに対する核関連の制裁を発動していた。

対イラン制裁は15年、バラク・オバマ元大統領の下で成立した画期的な多国間核合意である包括的共同作業計画(いわゆる「イラン核合意」)によって一時的に撤廃された。それと引き換えにイランは核開発の制限に同意したが、18年にドナルド・トランプ前大統領の下でアメリカは合意から離脱。その結果、制裁が復活すると、イランは核開発のスピードを徐々に上げ始めた。


ジョー・バイデン現大統領は就任後間もなく、核合意への復帰を目指して一連の交渉を開始したが、交渉は22年末までに決裂。アメリカとイランの相互不信はガザ戦争で深まる一方だ。5月上旬イランを訪問した国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は、イランはその気になれば数週間で核兵器を製造できると警告した。

グロッシも複数のイラン要人発言に懸念を表明した1人だ。IAEAのある報道官は本誌に言った。「核兵器に関する『粗雑な発言』には深い懸念を抱いていると、グロッシ事務局長は繰り返し明確にしてきた。イランが非核保有国の核兵器開発を禁じる核拡散防止条約(NPT)の加盟国であることも強調してきた」

この報道官は一方で、「イランが核兵器開発に動いたか、動きつつあるか、動くことを計画している証拠はない」というグロッシの最近のコメントにも言及した。

イラン国連代表部にコメントを求めたところ、核兵器に反対するハメネイの最初の指令を守ると再度強調したが、IAEAとの協力を再考させるような敵対的行動に警告を発するのも忘れなかった。

「周知のように、イランの核政策に変更はない。いかなる形の大量破壊兵器の製造、調達、備蓄、使用も明確に禁止する最高指導者のファトワを遵守し続ける」と、イラン代表部は本誌に語った。「だがIAEAの監視と査察の対象であるイランの核施設が攻撃された場合には、IAEAとの包括的保障措置協定に基づく協力を再考する可能性がある」

イラン国内の核に関する議論の転換を後押しする3つの要因のうち、「最も重要なもの」は敵対国の動向に対する懸念だと、サベットは本誌に語った。具体的には4月に起きた危険な武力の応酬(イスラエルがシリアのイラン大使館領事部を攻撃し、その報復でイランがイスラエルに大量のミサイルとドローン〔無人機〕を発射。イスラエルがイランの防空施設を再報復攻撃)だという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

WHO、成人への肥満症治療薬使用を推奨へ=メモ

ビジネス

完全失業率3月は2.5%に悪化、有効求人倍率1.2

ワールド

韓国製造業PMI、4月は約2年半ぶりの低水準 米関

ワールド

サウジ第1四半期GDPは前年比2.7%増、非石油部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中