最新記事
気候変動

気候不安症に揺れる若者たち...映画「アニマル」が描く希望の旅

2024年6月7日(金)17時00分
岩井光子(ライター)
ドキュメンタリー映画「アニマル ぼくたちと動物のこと」の主人公、ヴィプラン・プハネスワラン(左)とベラ・ラック(右) ©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

ドキュメンタリー映画「アニマル ぼくたちと動物のこと」の主人公、ヴィプラン・プハネスワラン(左)とベラ・ラック(右) ©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

<気候変動に不安を抱える若者たちが希望を求めて行動する姿を描いたドキュメンタリー映画「アニマル ぼくたちと動物のこと」>

世界の若者の間に気候(エコ)不安症と呼ばれる現象が広がっている。気候不安症とは、顕在化してきた気候変動の脅威から将来に悲観的になり、恐れや悲しみ、不安、怒り、無力感などを覚える症状のことだ。

2021年にイギリスのバース大学などがアジアやヨーロッパなど10カ国に住む16〜25歳の1万人を対象に行ったネット調査によると、若者の59%が気候変動の影響を「不安でたまらない」と感じ、45%以上がその感情が日常生活に悪影響を及ぼしていると答えた。

若者の暗い将来観に衝撃

現在公開されているドキュメンタリー映画「アニマル ぼくたちと動物のこと」の主人公、ロンドン在住の学生ベラ・ラックとパリに住む環境活動家ヴィプラン・プハネスワランも、地球の異変に不安と怒りを募らせるティーンエイジャーだ。何か行動しなければとデモやストライキにも参加するが、手応えはつかめていない。

監督のシリル・ディオンは2人に出会った時の印象を米誌のインタビューで次のように話している。

「私は気候変動問題にある程度詳しく、批判的な視点を持っている若い活動家を選んだが、彼らが非常に暗い将来観を抱いていることに驚いた」

撮影に先立ち、ディオンは動物行動学者で環境保護活動家のジェーン・グドールと話をしたという。

グドールは26歳の時に単身タンザニアの森に入ってチンパンジーの群れを観察し、動物に知性や感情があることを発見した業績で知られる。希望を失いつつある若者が増えていることを気にかけた彼女は、50歳を過ぎるとタンザニアで若者主導の環境保護プログラム「ルーツ&シューツ」を立ち上げた。

newsweekjp_20240606122717.jpeg

左から、ベラ・ラック、ヴィプラン・プハネスワラン、ジェーン・グドール ©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma - 2021

ルーツ&シューツは若者たちが希望の根(ルーツ)を張り、芽を出す(シューツ)ことができるよう命名された。69の国と地域で約1万2000のグループが環境・動物保護など関心ある分野で活動しているという。彼女は90歳となった今も世界を飛び回り、希望捨てずに行動してほしいと若い世代にメッセージを送り続けている。

ベラとヴィプランも知識は豊富だが、世界で進行する環境破壊や動物保護の最前線を「体験」しているわけではない。ディオンはグドールとの話から、2人を世界各地に連れ出し、彼らの気持ちの揺れに寄り添った映画を撮るという構想を固めていったという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中