最新記事
ニューカレドニア暴動

「天国に一番近い島」で起きた暴動、フランスがニューカレドニアを是が非でも手放せない理由

New Caledonia's Global Impact

2024年5月28日(火)16時30分
リシ・アイエンガー

newsweekjp_20240528031920.jpg

EV生産で中国に対抗するフランスは島のニッケル鉱山を死守する構えだ THEO ROUBYーHANS LUCASーREUTERS

フランスが何としてもこの島を手放すまいと、独立の動きを必死で抑え込むのもそのためだろう。「フランス政府が暴動の激化に即座に対応したのは、この島のニッケル資源の戦略的重要性のためでもある」と、ピーターソン国際経済研究所の上級研究員、カレン・ヘンドリックスは言う。

「ニッケルは現代の軍備とそれを支える経済を活気づけるために必要な戦略資源だ。19世紀もそうだったが環境に優しいエネルギー技術の台頭でさらにその重要性が増した」

21世紀の多くの地政学的リスクと同様、この島の将来にも中国の野望が影を落としている。今や世界一のEV生産国となった中国は近年この分野の振興のため、主要な鉱物のグローバルなサプライチェーンを支配下に置こうとしてきた。

ニッケルの確保では、世界の生産量の半分近くを占めるインドネシアに大きく依存しているが、その一方で地理的に高度な戦略的重要性を持ち、豊かな資源がある南太平洋の島々に影響力を拡大しようと着実に駒を進めてきた。

一方、フランス、さらにはヨーロッパはEV生産で中国に対抗。中国製の安価なEVが欧州市場にあふれる事態を何とか防ごうと必死だ。

マクロンが憲法改正手続きの延期を表明してまで住民の不満を抑え込み、ニューカレドニアの独立を阻止しようとしたのは「そのためでもある」と、ヘンドリックスは言う。

危機が産業を救う皮肉

暴動の数カ月前に世界のニッケル産業が苦境に陥っていたのは、部分的には中国の買い控えのせいでもある。今年1月、ニッケル価格は2020年9月以来の最低レベルまで下落した。中国のEV生産の大幅な減速がその一因だ。

ガードナーによると、中国は電池用ニッケルの世界の需要の80%超を占める。「昨年、電池と電池用原材料の中国の需要が伸び悩んだ」と、彼は説明する。「そのため電池用ニッケルの需給バランスは大きく崩れた」

ステレンレス鋼用のニッケルも供給過剰となり、生産コストが比較的低いインドネシアには勝てないとみて、スイスの資源大手グレンコアはフランス政府が補助金の増額を約束したにもかかわらず、ニューカレドニアのニッケル事業からの撤退を決めた。

「フランス政府は支援を提案してくれたがそれでも操業コストは抑えられず、現在のニッケル相場の非常に脆弱な状況では黒字転換は望めない」と、同社は声明を発表した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

企業向けサービス価格、5月は前年比3.3%上昇 前

ビジネス

豪5月CPI、前年比+2.1%に鈍化 コアは3年半

ワールド

米・イランの交渉「有望」、長期的な和平合意期待=ウ

ワールド

米国、集団的自衛権でイラン核施設攻撃と主張 国連安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 4
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 5
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 6
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 9
    「温暖化だけじゃない」 スイス・ブラッテン村を破壊し…
  • 10
    イスラエル・イラン紛争はロシアの影響力凋落の第一…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中