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「政治と関わりたくない人たち」がもたらす政治的帰結

2024年2月13日(火)17時00分
小林哲郎(早稲田大学政治経済学術院教授)

政治に関与し続ける人々が必要

この自助努力志向を、私生活志向とイデオロギー、および性別、年齢、学歴で説明する回帰モデルを推定すると、図2のような結果が得られた。この図は、私生活志向やその他の要因が自助努力志向とどのように関連しているのかを表しており、0よりも右側に●があれば、自助努力志向と正の連関を、左側にあれば負の連関があることを示している。特に、●の両側にあるバーが0の赤い線を跨いでいない場合に統計的に有意な連関があることになる。したがって、私生活志向は、その2つの下位概念(政治非関与と私生活強調)の両方において、自助努力志向と正の有意な関連をしめしていることになる。

図2 自助努力志向を説明する要因の効果
小林2.png

つまり、政治には関与せず、私生活の中で閉じて生きていこうとする人々は、公的なサービスに期待せず自助努力だけでやっていこうとする傾向が強い。このことは、彼らの公助に対する支持が弱いことを意味しており、「政治と関わりたくない人たち」が増えることで、ますます自助、自己責任が強調される社会になる可能性を示唆している。興味深いのは、こうしたいわゆる「小さな政府」を目指す志向は、保守的なイデオロギーと相関することが予想されるにも関わらず、イデオロギーと自助努力志向は関連を示していない。日本では公助と自助の選好が、「大きな政府」vs.「小さな政府」の文脈ではなく、政治に関わるか関わらないかという分断の中に位置づけられている。

こうした自助努力志向は、政府が財政健全化を目指して公助の規模を縮小したいと考える場合には都合の良い態度になるだろう。政治への関与をあきらめ公的な領域から撤退してしまう人々が増えることは、実は公的なサービスやセーフティネットの縮小につながりかねないのである。社会の問題を自助、すなわち個人的に解決するのではなく、社会全体で集合的に解決していくためには、政治に関与し続ける人々が必要である。

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■SMPP調査・第1回概要


小林哲郎(こばやし・てつろう) 早稲田大学政治経済学術院教授

東京都出身。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(社会心理学)。国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授、スタンフォード大学コミュニケーション学部客員研究員、香港城市大学メディアコミュニケーション学部准教授を経て、2023年より早稲田大学政治経済学術院教授。社会心理学をベースとした政治コミュニケーション、政治心理学、世論研究に従事。

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